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前編『損保業界最大手「東京海上日動」のようすがおかしい…「ビッグモーター問題」で社内は大慌て〈現役社員が暴露「損保ジャパンの一件は氷山の一角〉』

2023.11.19(日)

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20231119

「検査した34工場すべてに法令違反が見つかった」

 「本当に信頼できる整備工場はどこなのか」

 今年、世間を騒がせたビッグモーター問題は、すべての自動車ユーザーにこの問いを突きつけた。

 万一の事故や故障で車に不具合が出たとき、私たちは自動車整備のプロに修理を任せるしかない。その際、損保会社から「当社提携の工場は高い技術を有し、素晴らしい設備を備えています!」と言われれば、誰しも何の疑いも抱くことなく、その工場に修理を依頼するだろう。

 しかし今回、その「おすすめトーク」が口先だけだったことが露呈した。

 今年7月、ビッグモーター(以下、BM)社による保険金の不正請求が発覚した後、国土交通省は全国各地に点在する同社の整備工場に抜き打ちの一斉検査を実施した。その結果、「検査した34工場すべてに法令違反が見つかった」として、自動車整備事業停止などの重い行政処分を下したのだ。現在も別の複数の工場に対して、立ち入り検査が続いているという。

 そんな中、BM社と代理店契約を結んでいた損保7社は、いずれも同社との契約を解除。金融庁も11月30日付でBM社の保険代理店登録を取り消す方向だ。整備事業に次いで、店頭での自動車保険販売も停止されるとなると、BM社としてはかなり厳しい立場に置かれることになる。

ビッグモーターと損保ジャパンの「取引」

 一方、BM社の不正行為を認識して一度は取引を停止したものの、後に再開し、契約者の車をBM社の整備工場に入庫誘導していた損害保険ジャパンに対しても厳しい目が向けられている。金融庁は9月、同社の立ち入り検査を実施。11月には親会社であるSOMPOホールディングスに対しても保険業法に基づく立ち入り検査を開始した。

 ではなぜ、損保ジャパンは、整備事業の停止処分を食らうような悪質なBM社の工場を「指定工場」と銘打って、顧客に積極的に紹介し続けてきたのか。

 9月8日に行われた会見で白川儀一社長(当時)は「競合他社に取引が大きくシフトすることに強い懸念を持っていた」と回答。すでに報じられているとおり、損保ジャパンはBM社に事故車を1台入庫する見返りに、自賠責保険を5件契約するという「バーター取引」を行っていた。つまり、整備工場としての「質」ではなく、BM社という大口代理店から得られる「収入保険料」を最優先していたことを認めたのだ。

 整備の質は、最悪の場合、事故に直結するだけに深刻だ。人の命と安全を軽んじた企業としての責任は、極めて大きいと言えるだろう。

損保ジャパンは氷山の一角

 さて、「増収」の2文字に目がくらみ、信じられないような悪事に手を染めたBM社と、それを結果的に容認した損保ジャパン。現在はこの2社が集中砲火を浴びているかたちだが、筆者の元には損保業界に身を置く方々から、「表に出ているのは氷山の一角。構造的な問題は業界全体にある」という指摘が相次いでいる。

 「損保会社はどこも似たようなものだと思いますよ。指定工場への入庫を誘導する主な目的は営業推進、つまり、自賠責の契約をとることなんですよ」

 そう語るのは、東京海上日動火災保険の現役社員であるA氏だ。約5兆7000億円の売上を誇る同社は、損保業界の中でも最大手に当たる。

 「実は弊社もこの夏までは指定工場に何台の事故車を入れるかという目標を設定し、半ばノルマ的に取り組んでいました。あたかも自分たちはまともであるかのように取り繕っていますが、損保ジャパンが矢面に立っている裏で、問題のありそうな施策を変更したり撤回したりして、ほとぼりが冷めるのを待っているのです」

 後編記事「《損保業界最大手・東京海上日動の内部文書を入手》「ビッグモーター問題」でわかった「損保業界」に「悪習」がはびこるワケ』に続く

 「週刊現代」2023年11月25日号より