参議院内閣委員会03.5.22吉川議員質問(交通事故問題)



○吉川春子君
 この問題は、もしスタートしたら、その後、引き続き私は質問をしていきたいと思います。
 それで、さっき大臣も言われました、交通事故の問題なんですけれども、私の数字が間違っているのか、そっちが間違うはずはないと思うんですけれども、交通安全白書、平成十四年によりますと、死亡が一万二千八百五十八とかと出ているんですが、それはともかくとして、もし数字をあれだったら言っていただきたいんですが、私は今日は、交通事故によって重軽傷を負った方々のその後の問題について伺いたいと思います。
 死亡者の数にしても、二十四時間以内で何人かという統計を取っておりますので、二日間合わせるともっと、一万人を超えたりするわけですけれども、さらに重軽傷者の数というのは増加の一途をたどっておりまして、交通安全白書、平成十四年によりますと、百十七万五千五百六十二人、人身により失われた損害は一兆七千億円、こういう数字が出ております。
 それで、まずお伺いいたしますけれども、検察の自動車事故による業務上過失傷害の起訴率が一九八六年には七三%でした。その年以降、急激に減りまして、二〇〇一年には一一・二%に減少しております。
 これは、平成五年版の犯罪白書にありますように、国民皆免許時代、車社会の今日、軽微な事件について国民の多数が刑事罰の対象となるような事態になることは、刑罰の在り方としては適当ではないこととされて、検察の方で交通関係業務過失傷害事件の処理の在り方を見直した結果ではないでしょうか。
 法務省でしょうか、お伺いいたします。

○政府参考人(樋渡利秋君)
 まず、自動車等による業務上過失致死傷事件のうち、業務上過失傷害事件の起訴率は低下している状況にございますが、業務上過失致死事件の起訴率はおおむね六〇から七〇%で推移しておりまして、業務上過失致死傷事件の起訴率が全体として低下しているといいますのは、主に業務上過失傷害事件の起訴率が低下したことによるものであると承知しております。
 業務上過失傷害事件の起訴率が低下しました理由につきましては、委員御指摘のように、昭和六十二年に全国の検察庁において同事件の処理の在り方が見直されたことによるものであると考えられますが、その趣旨は、現代社会におきまして、一般市民が日常生活を営む上で起こすことが少なくないこの種事犯のうち、傷害の程度が軽微で特段の悪質性も認められず、被害者も特に処罰を望まないような事犯につきまして起訴猶予処分の弾力的運用を図ることとする一方、重大ないし悪質な事犯について厳正に対処することとして、寛厳よろしきを得た適正な処理を行うということにあると承知しております。

○吉川春子君
 処理の見直しは、三週間以内の傷害であれば業務上過失傷害として起訴しないという、東京高検から全国に広がったと言われています。
 九三年版の犯罪白書に、交通犯罪と刑事処分の問題が分析されておりまして、それを見ますと、検察官の処分別交通関係業務過失事件の因子の表に「被害者の死傷の別及び傷害の治療期間」とありまして、二週間以内の場合六十三件のうち、公判請求が六件、略式起訴が三件、起訴猶予が五十四件。一か月以内、二か月以内と、こうあるんですけれども、傷害が二週間以内であれば八六%が不起訴になっておりまして、ほとんど不起訴扱いですね。この起訴率の急激な減少、これが警察の初動捜査に、交通事故の初動捜査に大きな影響を及ぼしているのではないかというふうに考えられます。そういうことについてはどうですか。

○政府参考人(属憲夫君)
 交通事故が発生した場合に警察がその職責を果たすために捜査を遂げるのは、これは刑事処分の結果にかかわらず当然のことだというふうに認識をしております。また、これらの事実解明の結果が行政処分等の免許制度の運用や今後の交通安全対策にも活用されておりまして、現場の警察官は捜査活動の重要性を十分に認識して職務執行に当たっていると承知をしております。

○吉川春子君
 これは御参考までに、通告はしていませんので。
 静岡県警浜松中央署の署員が加害者に警察内の処分規定を漏らしという記事が載っていました。同市内の公立病院の診断書は十五日間の加療を要すとなっていました。これを加害者が同署に提出したところ、対応した署員が、けがの程度が二週間以内で悪質性が低い場合は送検しないという県警の内部規定を漏らしました。加害者は公立病院の医師に頼み、二週間の加療と書き直した診断書を再提出。同署はこれを受理し、立件を見送ったと。しかし実際は、被害者は完治までに八か月を要するけがでありました。こういう報道が載っていました。
 国家公安委員長、警察がこういう内部規定を作って運用しているとすれば大きな問題だと思うんですけれども、警察はすべての事件を送致してはいないのですか。新聞記事は参考まででいいです。

○国務大臣(谷垣禎一君)
 基本的に、警察は捜査を遂げたものは送致をしていると思います。ただ、ここはもう私は細かい実務は全部承知しておりませんけれども、検察庁とのいろんなお話合いの上で事務処理のいろんなルールは作っているのではないかというふうに思います。

○吉川春子君
 二週間以内の傷害であれば不起訴になるということであれば、そういうことになっていれば、現場の警察官の交通事故の初動の捜査というのはずさんになっていかざるを得ない。いってはいけないんでしょうけれども、なっていると。こういう姿勢は私は改めるべきだと思います。その点は、じゃ、簡単に一言、おっしゃりたいことあります。

○政府参考人(属憲夫君)
 交通事故の被害の程度が軽いから、あるいは重いから一生懸命捜査をして送る、あるいは送らない、そういうようなことはあってはならないというふうに思います。これは当然、業務上過失傷害という刑法に触れる行為でありますので、それについては、事案のその軽重にかかわらず、所要の捜査を遂げてきちんと検察庁の方に送致をする、そういうことで従来から指導をしているところでございます。

○吉川春子君
 具体的な事例を申し上げたいと思います。
 一九九三年三月五日午後十時ごろ、仕事中にバイクで移動していたAさんが、市内のガソリンスタンドで給油を終えて片側二車線の道路を右折しながら発進、右折を完了した左側の車線を走行中の乗用車に追突されて、事故から二十五日後に大腿部からの切断を余儀なくされたと、こういう痛ましい事件がありました。
 Aさんはフリーカメラマンとして独立したばかりでした。事故から八か月後に退院してリハビリに取り組んでいました。しかし、警察はこの八か月の間に一度もその事情を聞いていないんですね。加害者側から、正面衝突の事故で六五%は被害者に責任があると、このように言われました。Aさんは警察署に出向いて、加害者が信号を無視して追突してきたという主張を何度もしているわけなんですね。
 この初動捜査なんですけれども、警察はバイクの写真を二枚撮っただけで、事故現場にそのバイクも放置されたままで、部品がもぎ取られて、最後はフレームしか残されていなかった。せめて警察が事故車だけでも保管していてくれれば、もっと早く自分の主張が裏付けられたのにと、こういうふうにおっしゃっているわけです。しかも、事故後二年半経過した九五年になっても、この事件を検察に送致していませんでした。弁護士が照会しなければ、そのまま送致すらしなかったかもしれないと。
 こういう事例なんですけれども、交通事故の被害者が死亡したりあるいは大けがをしても、加害者が起訴もされずに、警察の初動捜査が極めてずさんで証拠が散逸してしまった、そして本人の事情聴取も一年近くたってからで、検察も起訴について何年も放置した。こういう被害者が民事訴訟を起こそうとしても、大変な苦労があるわけです。自分で証拠を集めて、一審判決までに十年が掛かったという例もあるんですけれども、実況見分調書が開示されても、写真が、現場の写真が二枚しか撮られていない、こういうずさんな例があるんですけれども、先ほど来の御答弁聞いていますと、こういうずさんな初動捜査というのは許されないのではないでしょうか。

○政府参考人(属憲夫君)
 それは、個々の事故のケースについてどうこう言われましても、私はそれが具体的にどういう事故だったのかちょっと分かりませんので、それについて十分お答えすることはできませんけれども、一般的に申し上げまして、今お話のありましたように、そんな重大な事故ですね、足を切断すると、そういった大事故について警察が捜査をしないでそれを放置をするということは、私はそれはあり得ないし、それは、入院をしておられてなかなか事情が聞けないとか、そういう特別の事情があったのかなというふうには思いますけれども、その辺については、個々の事案でありますので、よく、それについてはお答えはできないという状況でございます。

○吉川春子君
 入院していたんですけれども、もう十日後には本人はもうちゃんと口も利けて、取調べに応じられるという状況にありましたし、大けがをしているわけですから何か月か入院はされたんですけれども、でも、一年近くも全く事情聴取が行われないということとか、あるいは現場の写真が二枚しか警察によって撮られていなかったとか、これは民事裁判になって判決も出ていますので、お調べいただければ明らかなんですけれども、これは非常に、何というんですか、最初の捜査がずさんで、こういうことをもっと警察がきちっとやっていてくだされば、もっと、足も失い、そして裁判も、もう十年近く掛かってようやく第一審勝訴を得たんですけれども、そういう苦労をしなくて済んだと思うんですね。
 大臣、具体的な事例についても幾らでも、公になった証拠がありますので提供はできるんですけれども、こういう事例について、やっぱり初動捜査に大変問題があると私は思うんですけれども、そうは思われませんか。

○国務大臣(谷垣禎一君)
 私も今、委員がおっしゃった事案が具体的にどういうものなのか、よく分かりませんので、一般的なことしかお答えできないんですが、なかなか大きな事故が起こったという案件ですから、それはやはり、今、初動捜査とおっしゃいましたけれども、これはきちっと厳正に仕事をしなければならないものだと、一般論ですけれども、そのようにお話を伺って感じた次第です。

○吉川春子君
 刑事訴訟法の四十七条の訴訟書類の非公開について、これは警察庁と法務省と両方にお伺いしたいんですけれども、Aさんは、民事裁判を起こしてから、加害者の不起訴を覆すために、加害者と同型車を購入して、その車にビデオカメラを固定し、数か月にわたり延べ百回近く事故現場を走行し、撮影をしました。また、事故車と同型のバイクを借りて証拠写真も撮影し、仲間の協力を得て徹夜で証拠資料を作成し、大変な苦労をして裁判に臨んでいます。これは、刑事の方は不起訴になっているものですから、損害賠償請求をやったんですけれども。
 法務省にまず伺いますけれども、不起訴になった交通事故の事件で、被害者に対する情報開示はどこまで行われているんでしょうか。これは被害者救済という観点からも非常に重要であります。被害者にとっては──じゃ、まずそこでちょっと答弁をいただきたいと思います。

○政府参考人(樋渡利秋君)
 不起訴記録につきましては、関係者のプライバシーを保護するとともに、将来の事件を含め捜査、公判に対する不当な影響を防止するため、刑事訴訟法四十七条により原則として公開が禁じられておりますが、同条ただし書により、公益上の必要その他の事由があって相当と認められる場合はこの限りではないとされているところでございます。これは委員御指摘のとおりでございます。
 他方、犯罪被害者の保護の必要性にかんがみ、交通事故による事件を含め、不起訴記録については、被害者等が民事訴訟等において被害回復のため損害賠償請求その他の権利を行使するために必要と認められる場合におきましては、客観的証拠で、かつ、代替性がなく、その証拠なくしては立証が困難であるという事情が認められるときには、記録の開示を認める運用を行っているものと承知しております。

○吉川春子君
 例えば、具体的にどういうものを開示されていますか。

○政府参考人(樋渡利秋君)
 その時々の必要性によっていろいろあるのでありましょうが、例といたしましては、例えば実況見分調書、鑑定調書、思い付くところでどういうものがありますか、写真撮影報告書、信号機のサイクル表、あるいは診断書、死体検案書などが考えられます。

○吉川春子君
 それで、これは被害者のネットワーク等の運動により、法務省もここまで開示をするために少し扉のすき間を開けたということなんですけれども、被害者にとって加害者が、警察、あるいは検察かもしれませんが、どのような主張をしているかを知りたいという希望が切実です。そして、こういう被害者の願いにこたえるべき対応を是非検討していただきたい。
 裁判になれば裁判所を通じて出すよと、これは繰り返しおっしゃるんですけれども、裁判にするための、できるかどうかを判断するための段階ですから、裁判所を通じてというのはもう当然のことですけれども、そうじゃなくて、今おっしゃった幾つか、実況見分調書とかそういうものに加えて、供述調書とかそういうものを是非公表、公表というのは一般にではないですよ、必要とする人に公表していただきたいと思いますが、その点はいかがでしょうか。

○政府参考人(樋渡利秋君)
 今の御質問の中で、新たに供述調書ということでございますが、供述調書にはプライバシーに深くかかわる供述や裏付けを欠く供述等が含まれておりますことから、これを開示しますと、関係者の名誉、プライバシー等を侵害し、関連事件の捜査、公判や将来の刑事事件一般の捜査、公判への支障を生じるおそれがあることに加えまして、民事訴訟等において証人として証言することが可能であり、代替性がありますことから、原則として閲覧を認めていないところでございます。
 これ、原則としてと申し上げておりますから、その代替性がないような状況、例えばその証言をされている方がお亡くなりになったとか、そういうような場合はまた別でございますが、要はその供述者のプライバシー等、あるいはそこに現れてくる人たちのプライバシー等の観点からも、現在のところ、原則として閲覧を認めていないというところでございます。

○吉川春子君
 たしか日本の刑事訴訟法というのは、戦後、アメリカから輸入したものですよね、考えをですよ、それで作られてきているわけですよね。アメリカでどうなっているかということを読んだことがあるんですけれども、アメリカは一通幾らということで、本人だけではなくて弁護士とか、あと何人かの人たちに、これはもういつでも渡していると。それから、ドイツのハンブルクで調査をされた記事を読んだんですけれども、ドイツにおきましても供述調書というものを一通幾らでお渡ししているということです。
 それで、捜査の密行性とかいろいろなことあると思いますし、一般的に私はこの刑事訴訟法の四十七条の規定というのはもうそれは当然のことと思うんですけれども、不起訴処分がもう決定しちゃって、そしてその人は物すごい過失でもって交通事故で人をひき殺しているかもしれない、あるいは物すごいけがを負わせているかもしれないけれども、もう不起訴処分になっちゃっているわけですよ。そうすると、検察審査会とかそういうものは別としても、民事で訴えるほかないんですね。
 そのときに、当の加害者、交通事故の加害者がどういうことを警察やら検察やらで言っているかということを知らないと、裁判なんて普通なかなかできないわけですよ。やってみて駄目だったということにはなかなかできないわけですね、私たち庶民としては。そういうことを考えたときに、やっぱりそういう国際的な動向もあり、今、代替性がない場合は例外だとおっしゃったんですけれども、その例外の範囲を、四十七条の例外の範囲をもう少しこじ開けていただきたいと、これは大臣に質問したいんですけれども、困りますか。

○国務大臣(谷垣禎一君)
 ちょっと私、十分お答えする準備がないんですが、これ、間違っていたら交通局長なり刑事局長から訂正してもらえばいいと思うんですが、警察は捜査を遂げますと、それで検察に書類を送致、検察に事件を送致しますと、多分、記録もみんな検察の方に行くんだと思います。それで、起訴、不起訴を決定するのは検察官が決定するわけですから、後それをどう、確かに原則は、今、委員もおっしゃるように、四十七条で公開はしない原則というのは、いろいろな刑事の扱いの上で、原則として妥当だろうと思います。そこをどう例外として認めていくかというのは、やはり公判に責任を持たれる検察庁において御判断をいただかないと、なかなか国家公安委員長としては御答弁しにくい事柄でございます。

○吉川春子君
 時間もなくなってしまいました。
 それでは、法務省に重ねて要求いたしますけれども、この供述調書等、交通事故の加害者が警察、検察でどういうことを発言しているのかという内容を是非公表してもらいたい。そうじゃないと、損害賠償請求の裁判も非常に苦労だし、勝訴はしても非常に長い時間が掛かるという実情もありますし、プライバシーの尊重ということ一方であっても、もう一方で、やっぱりそういう事件に対して、事故に対して適切に公正に対処するという立場から、これはもう一歩例外規定の拡大の余地を検討してほしい、その際に諸外国の例も参考にしてほしい、どうですか。

○政府参考人(樋渡利秋君)
 委員のおっしゃっている御趣旨もよく理解できるところでありますが、現在の日本の捜査、公判の手続におきまして、一方で供述をしていただく方のプライバシー、それからその中に現れてくる人たち、供述をされたものがすべて裏付けを取っているわけではないという事情にかんがみまして、なかなかそのすべてを、その供述を相手方の被害者の方といえども公開、公表していくということは、今後その捜査に協力しないという方も出てくるというような状況もございまして、なかなか難しい面を含んでいることを御理解いただきまして、ただ、おっしゃっていることはよく分かりますので、今後ともずっと検討課題としてはあるだろうというふうには思っております。

○吉川春子君
 時間ですので、終わります。

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 民主党の細川律夫衆議院議員が交通事故の調書開示問題を質問したときの議事録です。あわせてご覧下さい。
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