ジャーナリスト・ノンフィクション作家 柳原三佳オフィシャルサイトHP

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台風災害「マイカーのない高齢世帯」への支援強化を

被災して分かった「非常時の車の有用性」、車手放した高齢者が危ない

2020.9.7(月)

JBPress記事はこちら

 ここ数年、「今までに体験したことのない・・・」という大型の強い台風が、日本列島に相次いで襲来し、その記録を塗り替えています。

 暴風雨による瞬間的な被害から命を守ること、まずはこれが最優先ですが、台風が過ぎ去った後に長く続く「停電」や「断水」といったライフラインの寸断は、被災地域の住民を予想以上に苦しめます。

 千葉県の郊外に住んでいる私は、昨年9月9日に発生した『令和元年房総半島台風』に見舞われました。

 この台風は関東地方に上陸した台風としては観測史上最大の勢力で、巨大な2本の送電塔を倒壊させ、2000本以上の電柱に損傷を与えました。その影響で、千葉県内では最大93万4900戸が停電するという事態に至りました。


倒れたままの電柱(筆者提供)

 停電に伴って連鎖的に発生するのが断水です。

 千葉県も例にもれず、浄水場から各家庭に水を送るポンプが停電で止まってしまったため、約3万戸で断水が発生しました。

 我が家は幸い、停電も断水も約50時間で復旧しましたが、周辺では電気が戻るまでに2週間以上かかった地域も多く、連日35度を超える猛暑の中、住民の方々はクーラーも使えず、シャワーも浴びることができず、本当に大変な思いをされていました。

停電時の避難場所として「マイカー」のありがたさを痛感

 さて、そんな過酷な状況の中、私自身が痛感したのは、「マイカーの存在のありがたさ」でした。

 このときの体験については、 『筆者の自宅も50時間停電 「マイカー避難」で感じた4つの重要ポイント』(2019.9.13/Yahoo!ニュース個人:https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20190913-00142405/)  に書いた通りです。

 酷暑の中、クーラーがまったく使えないというのは、もはや「辛い」を通り越して「危険」です。しかし、マイカーさえあれば、とりあえずエンジンをかけ、クーラーを効かせて体を冷やすことができるのです。

 また、あのときはたくさんの方が、「携帯電話やパソコンを充電することができない」とパニックになり、避難所に設けられた「充電コーナー」へ駆けつけ、順番待ちをしながら充電していましたが、我が家ではクルマにシガーソケットに差せる電源コードを積んでいたので、全く問題なく充電することができました。

 昨年の台風直後は、通信環境もアウトでした。携帯が全くつながらず、メールもラインもできなかったのですが、クルマさえあれば、電話やインターネットのつながる場所まで移動することができますし、公共交通機関がマヒしていても、またスーパーの棚が空っぽになっても、遠方に買い物に行ったり、親せきの家に避難することもできるのです。

 とにかく、台風による長時間の停電&断水を経験した私たち家族にとって、マイカーは間違いなくもっとも身近で優れた「避難場所」であり「移動手段」となりました。

クルマを手放した高齢ドライバーたちの悲嘆

 そんな中、長期化する停電と断水で大変過酷な状況に身を置かざるを得ないのが、マイカーを手放した高齢者の方々です。

 たとえば、猛暑の中で停電した場合、クルマがなければクーラーの利く空間に避難することができません。これは即、命にかかわります。

 また、避難所までの距離がある場合も、クルマがなければ支援が受けられません。食料配布をしていても取りに行けず、自衛隊がせっかくお風呂を用意していても、そこまで移動することができないのです。


自衛隊が山武市に設置した浴場。自家用車が無ければここにたどり着けない人も多いはず(筆者提供)

 給水車も各家庭を回ってくれるわけではありません。市役所や避難所まで市民が出向かなければならないわけですが、クルマのない高齢の方々が、どうやって自力で、重い水を運ぶことができるでしょうか。

 これは地方に行けば行くほど切実です。自宅と避難所が何キロも離れていることは決して珍しくなく、勾配のきつい山間部では自転車を使うことも容易ではありません。

 こうした状況の中、昨年、高齢者世帯にお弁当を配ったり、安否確認を行ったりしているボランティアの方に、ほんのわずかな時間でしたが同行させていただいたのですが、まさに命をつなぐ活動だと敬服しました。

 一方で、その手が届かないまま孤立している高齢者も多数おられる現実を目の当たりにし、マイカー所有前提の被災者支援の在り方に大きな疑問を感じました。

「マイカー」を持たない被災者への具体的支援を期待

 ここ数年、高齢ドライバーによる重大事故が社会問題となり、多くの高齢者が自主的に免許を返上しました。80代の親をもつ私たちの世代にとっても、この問題は切実です。

「クルマを手放す」という決断を下すことによって、交通事故を起こすリスクはなくなりますが、こうした大規模災害に見舞われたとき、高齢世代はクルマという足がないことでいかに不自由を強いられ、命の危険に脅かされるか・・・、そのことを今一度しっかり認識すべきだと痛感しました。

 これから台風10号の被害が出ると予想されている九州地方では、7月の豪雨による洪水被害によって多くのクルマが冠水し、マイカーを失った方も多数おられると思います。

 とにかく、マイカーを持つ人と持たざる人の間では、災害後の「命の危険度」に、確実に差が出ます。

 行政の方には、世帯のマイカー所有情報をあらかじめ把握していただき、マイカーを持たない方には具体的な支援対策を取っていただきたいと思います。