ビッグモーター事件で注目された自賠責、損保会社の「手数料」は適正なのか
これが「ビッグモーター問題」の根源、ついに国会でも追及開始
2023.11.21(火)
ビッグモーターによる保険金不正請求問題を受け、金融庁は同社の保険代理店登録を11月30日に取り消す方針を固めました。国土交通省もすでにビッグモーターの整備工場に抜き打ちの一斉検査を実施し、自動車整備事業停止などの行政処分を下しています。整備事業に次いで保険販売も停止されるとなると、中古車販売会社としての業務の存続はかなり厳しいものとなるでしょう。
一方、不正行為を認識しながらビッグモーターとの取引を再開し、契約者の車を同社の整備工場に入庫誘導していた損保ジャパンに対しても、金融庁は9月に立ち入り検査を実施。11月には親会社であるSOMPOホールディングスに対しても、保険業法に基づく立ち入り検査を開始しており、今後の動向が注目されます。
今年7月、さいたま市にあるビッグモーターの店舗で行われた国交省の立ち入り検査の様子(写真:共同通信社)
事故車入庫の見返りに「利益が発生しない」自賠責の契約をもらうバーター
さて、筆者はJBpressにおいて、7月、今回の問題が起こったそもそもの「根源」について、以下の記事を発信しました。
(参考)損保は被害者なのか?ビッグモーター問題の根源に「自賠責の粗利の高さ」の声 実は損保に「おいしい」自賠責引き受け、そこに修理業者との「癒着」の可能性
自賠責の社費(損保会社に支払われる手数料=営業費や損害調査費など)は、どの社においても、契約1件当たり5056円となっており、業界全体で見ると年間2000億円超。上記記事では、自動車業界に詳しい専門家が、「自賠責保険の契約を取ることは、損保会社の利益につながっている」という指摘をしたのです。
自賠責保険は国が法律で加入を義務付けている被害者救済のための対人保険です。「ノーロス、ノープロフィット」といって、赤字も黒字も出さないことになっており、建前上、この保険による利益は発生しないことになっています。
ところが、すでに報じられているとおり、損保ジャパンはビッグモーターに事故車を1台入庫する見返りに、自賠責保険の契約を5件もらうという「バーター取引」を行って契約を獲得していました。
こうしたもたれあいの構造は損保ジャパン1社に限ったことではなく、東京海上日動も、自賠責保険契約奪取のために賞品を掲げて、代理店向けのキャンペーンを行っていたことが明らかになっています(以下の記事参照)。
(参考)ビッグモーター事件で浮上した疑問、損保の「指定工場」を信用していいのか 工賃の二重価格、大手販社への優遇…損保と自動車修理業界の裏側の真実
ここでひとつの疑問がわきます。そもそも、損保各社は営利企業でありながら、なぜ、利益のまったく発生しないはずの自賠責保険がそれほどほしいのでしょうか。
そこで、東京海上日動に改めて、「損保会社が受け取る社費においても、ノーロス・ノープロフィットという原則があるのですか?」と質問したところ、以下の回答が返ってきました。
「ご認識の通りです。社費についても、単年度ごとに発生した黒字や赤字は、その全額を責任準備金に積み立てることになっており、保険会社の利益にはなりません」
では、損保各社に支払われる「社費」は、いったい何を根拠に積算され、どのように使われているのでしょうか。残念ながらそれを検証しようにも、「社費」の具体的な算出根拠については表に出ておらず、なかなか見えてこないのが現実です。
国会でも取り上げられた自賠責の「社費」
そんな中、つい先日、国会でこの問題が追及されました。
2023年11月10日に行われた衆議院国土交通委員会で、立憲民主党の神津たけし議員が、自賠責保険の「社費」についての質問を行ったのです。
ところが、国会議員が算出根拠について繰り返し質問しているというのに、国は具体的な資料を示すことはありませんでした。
以下、一部抜粋します。
オープンになっていない計算式
<衆議院国土交通委員会/2023年11月10日より>
神津たけし議員 現在、日本で走っている車はおおよそ8200万台、ほぼ全ての車が自賠責保険に加入しています。9000億円の自賠責保険料のうち、大体6000億円ぐらいが保険金として支払われていて、残りの3000億円が保険会社、それから代理店に入っていくという仕組みになっております。ビッグモーターと損保ジャパンの自賠責を介した蜜月関係におけるこの仕組みにおいて、経費的な見直しというものを精査していかなければならないのかと思っております。
今現在、5ナンバー(乗用車)の自賠責保険料は2年で1万7650円。このうち、代理店に対して支払われている手数料が1735円、保険会社に入る経費(社費)は5056円、保険会社に5056円支払われているんですね。業界全体で合わせると、保険会社に非常に大きな、2174億円が保険会社に入っていくこととなっております。自賠責保険を構成する純保険料、社費、代理店費の各費用の積算は何を基に行っているのか、伺えますでしょうか。
神田潤一(内閣府大臣政務官) 神津委員ご指摘のとおり、自賠責保険料は、純保険料、社費、代理店手数料等によって構成されております。それら算出方法につきましては、自動車損害賠償保障法の中で、純保険料、社費、代理店手数料、それぞれについて、利潤や損失を生じさせない水準とすることが求められております。それらが適正な水準であるかについては、自賠責保険審議会において検証し、検証の結果、改定の必要があれば自賠責保険料を改定しています。
なお、社費を計算する際に保険会社が用いる経費計算基準については、日本損害保険協会において、学識経験者や会計専門家等の外部の有識者等により作成されており、その内容についても自賠責保険審議会において了承を得ております。
神津議員 第三者委員会からの承認を得ているというやり方はいいと思います。ただ、私の立場から、「では、どういう計算式でやっているのか?」ということを聞いても、実はなかなか出てこなかったんですね。最初はずっと、「ない、ない」と言われていて、2012 年の資料が出てきて、それで、「あった」ということが分かったんですが、たとえば、この業務には処理に何分かかって、それかける基本的な給与とか、いろいろな計算式があるわけですけれども、その金額とか分数はオープンになっていないんです。
そういうものは、やはり細かい計算式などもちゃんとオープンにすることによって、初めてその金額の妥当性というものが検証できるのではないかと思っております。その計算の基準について、全て公開していただけないでしょうか。
神田大臣政務官 神津委員ご指摘の経費計算基準は、先ほども申し上げましたが、日本損害保険協会において、学識経験者や会計専門家等の外部の有識者等により作成されているものであり、自賠責保険審議会の資料において、社費の計算方法の考え方や例、あるいは、経費計算基準を全社が使用することについての考え方などについて、算出の見直しに当たり行った業務実態調査の概要などとともに公表をしております。金融庁としては、その公表の範囲の妥当性について、必要に応じて日本損害保険協会と議論をしてまいりたいと思います。
神津議員 経費計算基準の公開を求めて、理事会で協議を図っていただくようにお願いいたします。
長坂康正(国土交通委員長) ただいまの件につきましては、理事会で協議いたします。
神津委員 ありがとうございます。以上で質問を終わらせていただきます。
「1件当たり5056円」の算出根拠は
この日の質疑を終えた神津議員は語ります。
「金融庁には事前に、各費目の積算根拠を出すようにお願いしたのですが、結局出してくれませんでした。第三者委員会の方々がその数字を見たうえで、『いい』と言っているのだからおかしくはないと言うのです。しかし、私が見た限り、第三者委員会に提出している資料自体、細かく書かれていないんです。自賠責保険は本当に、ノーロス・ノープロフィットなのか? この問題については、来年春の国会でも引き続き追及していきたいと思っています」
神津議員が求めた、社費に関する経費計算基準の公開。金融庁は国会で、「その公表の範囲の妥当性について、必要に応じて日本損害保険協会と議論をしてまいりたい」と答えました。しかし、そもそも、法律で加入が義務付けられている保険料の算出根拠について、「公表の範囲の妥当性」に議論が必要なのでしょうか。
国交省は最後に、公開については「理事会で協議する」と答えました。「利潤や損失を生じさせない水準とすることが求められている」という以上、自賠責保険料を支払っている多くの自動車ユーザーが納得できるよう、まずは1件当たり5056円という「社費」の算出根拠を明らかにしたうえで、納得のいく説明をしてもらいたいと思います。