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【動画】信号無視の直進車とあわや衝突! 12月は死亡事故発生最多の月 加害者にならない運転を

2023.1.20(金)

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自転車を偽装した「ペダル付きバイク」は危険すぎる…警察は本気で交通事故を減らすつもりがあるのか

人が死んでからでは遅すぎる

ペダルをこがなくても自走し、時速40キロ以上も出る電動バイクが、「電動アシスト自転車」として販売され、利用されている。ジャーナリストの柳原三佳さんは「これは『自転車』の顔をしたバイクであり、歩行者を危険にさらしている。なぜ警察は本気で取り締まらないのか」という――。

電動アシスト自転車として販売されていた「シーガル26」=京都市上京区の府警本部で2023年1月16日午後2時16分、中島怜子撮影

電動アシスト自転車として販売されていた「シーガル26」=京都市上京区の府警本部で2023年1月16日午後2時16分、中島怜子撮影

警察がようやく動いた

新年早々、京都市内にある自転車販売会社の社長が、「不正競争防止法違反」(誤認惹起)の容疑で書類送検されました。

*ペダル付きバイクを「電動アシスト自転車」と表示して販売、業者を書類送検…全国初:読売新聞オンライン

上記記事によると、この会社は中国から輸入した「ペダル付きバイク」を、「電動アシスト自転車」であると偽って宣伝。10年間にわたり、1台約20万の価格をつけ、およそ300台販していました。『ペダル付きバイクを巡って販売業者が摘発されるのは初めて』とのことです。

運転免許もいらず手軽な「電動アシスト自転車」だと信じて購入した人たちは、悪質業者にだまされたとはいえ、結果的に法律違反をして走行していたことになり、怒りと焦りを感じておられることでしょう。

一方、違法と知りながら、少しでも速く走る商品を求めたユーザーもいるようです。いずれにせよ、購入したものが「電動アシスト自転車」ではない以上、法律に基づいて速やかに「ペダル付きバイク」として登録する必要があります。

そして、これから「電動アシスト自転車」の購入を考えている人は、その製品が本当にその基準に適合したものかどうかを見極め、詐欺的なキャッチコピーにだまされないよう気をつけてください。

「電動アシスト自転車」と「ペダル付きバイク」の決定的な違い

では、「電動アシスト自転車」と「ペダル付きバイク」、そもそも何が違うのでしょうか。改めて聞かれると、とっさに答えられない人も多いのではないでしょうか。

下記はその違いを簡単に比較したものです。

●電動アシスト自転車

・ペダルをこがないと走行しない

・時速24キロを超えるとモーターでのアシストが止まる

●ペダル付きバイク(電動キックボードも同様)

・ペダルをこいでいなくても走行する

・時速24キロ以上の速度でも電動アシストが働く

つまり、外見的には自転車と同じでペダルがついていても、「電動アシスト自転車」(軽車両)の基準から外れているものはすべて、「ペダル付きバイク」、つまり、道路交通法上は「原動機付自転車」として扱われるのです。

ペダル付きバイクに乗るためには、当然のことながら免許証が必要になるほか、自賠責保険の加入、ヘルメットの着用も義務付けられています。もちろん、車道以外を走行することはできません。

また、自転車とは違って、ナンバープレート、サイドミラー、方向指示器、スピードメーター、前照灯、後尾灯など、保安基準に適合した装備も不可欠です。

大阪府警のサイトで公開されている以下のチラシは、一般ユーザー向けに分かりやすくまとめられています。

出典:大阪府警「『電動キックボード』『ペダル付き原動機付自転車』違法走行抑止チラシ」より

出典:大阪府警「『電動キックボード』『ペダル付き原動機付自転車』違法走行抑止チラシ」より

ここでも強調されているように、無免許運転の場合は3年以上の懲役または50万円以下の罰金。保安基準を満たさず、整備不良のまま運転したら、3月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられます。

ちなみに、同サイトには、ペダル付きバイクや電動キックボードを扱う業者に対する以下のような記載もありました。

<電動キックボード等の販売取扱店においては、販売する際に上記の点について丁寧にユーザーに対して説明してください。「運転免許がなくても公道で乗れる」等の虚偽の宣伝や説明をすると、刑事責任を問われる場合があります。>

つまり、今回摘発された業者は、まさにこの警告を無視し、違法な販売を行ったことになるのです。

ここ数年で急激に増えてきた「ペダル付きバイク」

さて、今回のニュースが報じられると、ネットのコメント欄には、ペダル付きバイクや電動キックボードに対する厳しいコメントが相次いで書き込まれました。

「ペダルをこいでいないのに、かなりのスピードで歩道を走っている自転車が増えて怖い」
「ヘルメット着用が義務づけられているはずなのに、ノーヘルで走りまわっている」
「警察はなぜもっと厳しく取り締まってくれないのか!」

先に紹介した大阪府警のチラシには、『取り締まり強化中?』と大々的に書かれていましたが、一般市民の感覚としては、「無法者が野放しになっている」という不満も高まっているようです。

※写真はイメージです

実際に、ペダル付きバイクによる人身事故も多数発生しています。

2021年10月、無免許でペダル付きバイクを運転していた男(26)が、自転車の女性をはね、女性は指を切断する大けがを負いました。男は「自転車同士の事故」と虚偽の報告をしていましたが、ウソがばれ、自動車運転死傷行為処罰法違反(無免許過失運転致傷)容疑で逮捕されました。

※男が無免許でペダル付きバイク運転、57歳女性はね薬指切断のけが…自転車事故と偽り通報:読売新聞オンライン

また、2019年11月には大阪でひき逃げ事件も発生しています。逃げた男(26)はその後、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)と道路交通法違反(ひき逃げ)の疑いで逮捕されています。

※モペットでひき逃げ容疑、男を逮捕 被害者は足首を骨折:朝日新聞デジタル

「自転車」の顔をしたバイクが歩道を走っている

このほかにも、「ペダル付きバイク、事故」といったキーワードで検索すると、悪質な事案がいろいろと出てきます。

*無免許でモペット運転容疑、書類送検 ノーヘル、ナンバーなし:朝日新聞デジタル

警察庁の調べによると、2022年1~9月にペダル付きバイクや電動キックボードが指導警告を受けたケースは780件。そのうち5割以上の360件が無免許運転でした。

先日、自転車によるひき逃げ事故を取り上げ、歩行者との衝突の瞬間を記録した防犯カメラの動画を公開しましたが、これを見ると、自転車であっても相手にかなりの衝撃を与えることがわかります。

ペダル付きバイクの中には、時速40キロ以上出るものも珍しくありません。こうした乗り物が「自転車」の顔をして、歩道をわが物顔で走ることがどれほど危険であるか……、特に子どもを持つ親の立場からみれば、一刻も早く何とかしてほしいと祈るような気持になります。

ノーヘル・無免許・無保険の「ペダル付きバイク」を減らすには…

そこで、反発を恐れず、ひとつの提案をしたいと思います。

それは、「ペダル付きバイク」や「電動キックボード」に限らず、すべての自転車にヘルメットの着用を義務化するべきではないか、という案です。

違反と知りながら取り締まりをかいくぐっている人々の多くは、ノーヘル・無免許・無保険で整備不良の「ペダル付きバイク」に確信犯で乗り、「自転車」の利便性を享受しています。

しかし自転車にもヘルメットの着用を義務付ければ、それを面倒だと思うユーザーたちをかなり排除することができるのではないかと思うのです。

ちなみに、現時点では、自転車に対するヘルメットの着用は「努力義務」となっており、着用しなくても違反にはなりません。2022年4月27日に公布され、今年4月から施行される「道路交通法第63条の11第1項~3項」の条文は以下の通りです。

・自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。

・自転車の運転者は、他人を当該自転車に乗車させるときは、当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。

・児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児が自転車を運転するときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。

規制強化がされたバイクとヘルメットの歴史

なぜ、このような「努力義務」が課せられたのか? それは、自転車乗車時にヘルメットを着用していない場合、その致死率は、着用時に比べて約3倍高いことが分かっているからです。

「全ての自転車にヘルメットの着用を」などと言うと、戸惑う自転車ユーザーの方が大半でしょう。もちろん、ヘルメットをかぶらなくてもよいという便利さはよく理解できます。しかし、こうしたデータがある以上、本当に今の「努力義務」のままでよいのか、私は疑問を感じます。

ちなみに、ひと昔前まではバイクもノーヘルで走っていたことをご存じでしょうか。

現在は原付を含むすべての排気量のバイクにヘルメットの着用が義務づけられていますが、そこに至るまでには、段階的に道路交通法の改正が行われ、以下のように規制を厳しくしていった歴史があるのです。

1975年 政令指定道路区間に限り、51cc以上のバイクにヘルメット着用を義務化

1978年 一般道においても、51cc以上のバイクにヘルメット着用を義務化

1986年 原付も含めたすべてのバイク、すべての道路でヘルメット着用を義務化

こうした法改正によって、どれほどの数のライダーが命を救われたことでしょう。また、バイクと事故を起こした多くのドライバーが「死亡事故」の当事者にならずに済んだはずです。私自身もバイク乗りのひとりですが、もし今、「ノーヘルで乗ってもOKですよ」と言われても、恐ろしくて絶対に無理です。

命を守る規制が必要だ

ところが残念なことに、国は今、この手の乗り物の規制を緩める方針を打ち出しています。

たとえば昨年の3月4日に閣議決定した道路交通法の改正案では、時速20キロ以下の電動キックボードを「ほぼ自転車」扱いとし、「特定小型原動機付自転車」という新たな車両区分に分類しました。16歳未満の運転は禁止ですが、免許は不要、ヘルメットは義務ではなく、任意となる見込みです。

*電動キックボード、7月から新ルール 基準適合で免許不要 周知課題、指導徹底へ・警察庁(時事通信)

しかし、時速20キロ以下のキックボードと、そうでないキックボードをどうやって見分けるというのでしょう。また今回の「ペダル付きバイク」のような問題が起こることは必至です。

利便性やファッション性を求め、急増している「ペダル付きバイク」や「電動キックボード」、しかし、実際に違反者による深刻な事故が起こり、被害者が出ています。

事故が起こってからでは遅すぎます。取り締まりが追い付かないのであれば、「命を守る」という観点での徹底的な対策が必要です。