美女木多重事故、被告は「気の毒ドライバー」ではなかった、不倫相手とのLINE履歴が暴いた同情の余地なき行為の数々
2025.7.24(木)
昨年5月、首都高速の美女木ジャンクションで発生した大型トラックによる追突多重衝突事故。複数の車が炎上し、3名が死亡、3名が負傷するという大惨事となった。事故から1年が過ぎた今年5月20日、東京地裁でようやく始まった刑事裁判では、被告のトラック運転手のLINE履歴とともに、事故数日前からの信じがたい行為が公開された。7月24日の第2回公判を前に、初公判で明らかになった事実を、ノンフィクション作家の柳原三佳氏がレポートする。
トラックを片手運転、もう一方の手で不倫相手にLINE
5月20日、東京地裁で「美女木JCT追突炎上死傷事故」の初公判が開かれました。自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われているのは、本件事故を引き起こしたトラック運転手・降籏(ふりはた)紗京被告(29)です。
この日の法廷では、冒頭、降籏被告が運転する大型トラックの前方に装着されていた事故当日(2024年5月14日)のドライブレコーダー映像が、約30秒にわたって傍聴席にも流されました。
交通量の多い朝の首都高速、前方で渋滞が起こっているにもかかわらず、トラックはスピードを全く落とそうとせず、ノーブレーキで車列の最後尾に突っ込んでいきます。次の瞬間、大きな衝突音と共にトラックのフロントガラスは激しく破損し、蜘蛛の巣状のひびが広がりました。
次に流されたのは、首都高速に設置された監視カメラの映像です。こちらには、被告のトラックが突っ込んだ後、前方で押しつぶされた被害車両から黒い煙と炎が立ち上る様子までがしっかりと記録されていました。後ろから突然大型トラックに激突された被害者にとっては、まさに避けることも、逃げることもできない一瞬の出来事です。
事故の被害者・杉平裕紀さんが乗っていたハイエース。原形をとどめないほど大破し、炎上した(遺族提供)
追突された車の中には、それぞれ仕事先へ向かう人たちが乗っていました。しかし、一人の男の漫然運転によって、その先の人生を断ち切られ、大切な家族と過ごす時間を永遠に奪われたのです。
(参考記事)【6人死傷の玉突き事故】遺族慟哭、「高熱のまま大型トラックで首都高をフラフラ走行」が危険運転じゃないなんて…(2025.5.1)
検察官は冒頭陳述で、以下のような事実を読み上げました。一部ですが内容を抜粋します。
●(被告は)事故の3日前から発熱し、当日は38度の発熱で頭がくらくらする状態だったが、運送会社に借金があるため迷惑をかけたくないという理由で運転した。
●追突事故を起こす直前、ふらつきながら運転し、車線を逸脱すると音が出る車線を20回以上踏んでいたが、停止することなく、時速75キロから80キロで衝突した。
●事故当日の朝、運転中に片手でハンドル操作をしながら、女性(*妻ではない人物)に多数のLINEを送っていた。
●事故後は救助活動に参加しなかった。
拘置所からTシャツ姿で法廷に現れた降籏被告は、これらの内容について、「間違いありません」と認めました。
ネットから湧きあがった「ドライバーも気の毒」との声
本件事故をめぐっては、降籏被告が勤務していた運送会社「マルハリ」(札幌市)の元社長の男(48)も、今年5月、業務上過失致死傷の疑いで書類送検されています。従業員が体調不良をきたしているにもかかわらず、代わりの運転手の手配等を怠ったこと、また、事故当日の運行前点呼を行っていなかったことなどがその理由です。
こうした事実を受け、ネット上では、運送業界の厳しい勤務実態やずさんな管理体制の問題がクローズアップされ、高熱が出ていてもハンドルを握らざるを得なかった降籏被告に対して、「気の毒だ」と擁護する声が多数見られるようになりました。
被告が自身のFacebookにアップしていたトラックの写真
たしかに、会社側が従業員の健康管理をきちんと行っていれば、このような事故は防げたのかもしれません。しかし、本件の初公判を傍聴して私が感じたのは、この被告に「気の毒」といった言葉は当てはまらないのではないか、ということです。
以下は、初公判の直後に行われた記者会見で、本件被害者家族の支援を行う上谷さくら弁護士が、記者に向けて語ったコメントです。検察官によって明らかにされた事故に至るまでの経緯が、さらに、各種証拠に基づいて詳細に補足されています。
初公判後の被害者遺族の会見。左端が上谷さくら弁護士、右端が高橋正人弁護士(筆者撮影)
*画像は一部加工しています
上谷弁護士による会見を紹介しながら、事故発生までの降籏被告の行動と、そこから垣間見える悪質な行為について見ていきたいと思います。
おびただしいLINEのやり取り
<上谷さくら弁護士による記者会見より抜粋>
まず、事故当時、降籏被告は結婚しておりました。今日、冒頭陳述で出てきた不倫相手とのLINEについてですが、彼らは5月2日、5月5日、5月7日にも会っています。
その後、5月10日あたりからのLINE履歴があるのですが、まず5月10日には3時22分から夜の9時24分まで80通のラインのやりとりがあります。今日の冒頭陳述にもあったと思いますが、降籏は飲酒をしているにもかかわらず、「会いたい」と言い、相手から「飲酒しているんだからダメ」と何度も止められたのに、会いに行っています。
上谷さくら弁護士(筆者撮影)
記録に出ていますので言いますけれど、このとき、コンビニで会って2人でキスしたりしていました。
翌5月11日、この日も朝の9時20分から午後1時59分までの間に55通のLINEのやりとりがあります。相手の女性が「熱が出た」と言っておりますが、その合間にまた公園で会っています。
その後、多分帰ったのだと思いますが、3時49分から午後11時6分まで、77通のLINEのやりとりをしています。
5月12日、夜中の1時半から午後9時58分まで、相当長時間ですが、197通のLINEのやりとりをし、被告人の方から「熱が出てきた」「今のところ38度4分」などというLINEを断続的に送り続けています。
5月13日、事故の前日はそのような状況であるにもかかわらず 朝の6時50分から昼の12時46分まで19通のLINEのやりとりをし、「今、熱を計ったら38度9分」と言っています。
間で少し寝たようで、その後、また夜の7時16分から、日付をまたいで夜中の1時41分まで73通のLINEのやり取りをし、被告人が「熱が上がって市販薬が効かない」などのLINEを送っています。
5月14日(*事故当日)、朝4時18分に「おはよう行ってくるね」というLINEを送った後、6時5分から7時17分までやり取りがありました。「家を出る前は38度2分だった」ということを不倫相手に伝えています。
冒頭陳述にもあったように、彼は右手でハンドル、左手でラインをしながら運転していたという状況で、事故を起こしているのです。
トラックと側壁の間で押しつぶされ、炎上した杉平裕紀さんが乗っていたハイエース(遺族提供)
事故後、獄中再婚していた被告、相手はLINEの相手とは別の女性
不倫相手ということになっていますが、この女性は降籏から「離婚した」と聞かされていたので、自分は不倫の認識はありません。普通に交際していると思っていたということです。
冒頭陳述でも出ましたが、この事故(*5月)の後、降籏は6月に奥さんと離婚しています。そして事故後、令和6年8月に別の女性と婚姻した、とありますが、この「別の女性」は、LINEの女性ではありません。実はもう一人、交際相手がおりまして、その女性と結婚したということになっています。
令和6年8月といえばまだ事故から3カ月、ご遺族は非常につらい状況におられた中で、被告本人は新しい女と再婚をする……、こうしたことに対するご遺族の怒りは強く、被告に何の反省もないということで傷つきが大きくなったという事情があります。こういった背景は、この事件に関して非常に大きいと思っています。
あと、一部報道の影響なのかわからないのですが、「会社が悪い」「これは被告がかわいそうじゃないか」「トラックドライバーは働かされすぎ」「本人が休みたいと言ったのに、会社が休ませてくれなかった」というようなコメントが見受けられます。中には、(厳罰化を求める)ご遺族を責めるようなコメントも寄せられています。でも、今日はっきりしたと思うのですが、被告は上司から確認されて、自分から「大丈夫」と言っています。
その理由は、借金があるからです。事故を起こしたときの罰金を会社に借金していたため、休みたくないということで、彼は自分から「大丈夫」と言って運転したということです。会社にももちろん、ダメなところはあったと思うのですが、被告は会社に無理に働かされていた「かわいそうな人」ではない。
しかも、熱が出たという自覚があるにもかかわらず、不倫相手と延々とLINEをして、睡眠を全く取らず、事故の直前にも「ながら運転」をしている。その点は非常に重要だと思っているところです。
<以上、上谷さくら弁護士の記者会見より>
交通事故で70万円の罰金刑、それでも懲りずに高熱あるのに「ながらスマホ」
初公判では、被告の運転適性に疑問を感じざるを得ないさまざまな事実が羅列されました。
まず、上谷弁護士の会見にもあるように、降籏被告は会社に罰金の借金をしていました。そのため、仕事を休みたくなかったと供述しています。公判では、本件事故の2年前(令和4年)に交通事故を起こし、70万円の罰金刑を受けていたとのこと。この金額からすると、小さな事故ではないことが想像できます。
そして、事故の4日前には、飲酒していたにもかかわらず、車で不倫相手に会いに行っていたことがLINEの履歴から明らかになっています。これが事実なら、飲酒運転をしていたことになります。
また、事故当日は、早朝から業務で大型トラックを運転し、その最中に女性とLINEのやり取りをしていました。いったいどうやってメッセージを入力していたのでしょうか。いずれにせよ、片手運転で「ながらスマホ」をしていたことは間違いありません。
焼け焦げたハイエースの運転席(遺族提供)
そして何より、3日前から発熱し、体調不良があったことを認識していたにもかかわらず、体を休めるどころか、逆に睡眠時間を削って400通ものメッセージをやり取りしていたのです。
本件では、LINEの履歴が事故前の被告の「ながらスマホ」のほか、睡眠不足などの理由を裏付ける重要な証拠となっていました。今後、重大な交通事故捜査においては、携帯電話のチェックは必須にすべきでしょう。
こうした現実を目の当たりにし、運送会社の管理はもとより、被告自身の大型ドライバーとしての安全運転への意識の低さに改めて憤りを覚えます。本件で大切な人を亡くされたご遺族が、「過失」ではなく、「危険運転致死傷罪」での起訴を強く望まれた理由が、裁判を傍聴してよくわかりました。
初公判で膨大なLINEの履歴を白日の下にさらされた降籏被告は、次の裁判で何を語るのでしょうか。
第2回公判は、7月24日午後1時半から、東京地裁104号法廷で開かれる予定です。