信号無視の自転車がひき逃げ、「発生の瞬間」がカメラにバッチリ映っているのに3年経っても検挙されないのはなぜか
2025.10.17(金)

2022年10月18日午後3時半頃、JR池袋駅からほど近い南池袋3丁目の横断歩道で、赤信号無視の自転車が歩行者をはねる事故が発生した。自転車を運転していた若い男は、倒れていた女性を救護せずにそのまま逃走。3年経った今も逮捕には至っていない。事故の一部始終は防犯カメラに記録され、複数のメディアで公開されたが、なぜ、捜査は進展しないのか……。事故後、一切救済を受けられずに放置される被害者の苦悩を、ノンフィクション作家の柳原三佳氏が聞いた。
「ごめんなさい」で済む話ではない
「信号無視の自転車にひき逃げされてから、早くも3年が経過しました。事故の瞬間映像はビルの防犯カメラに記録されており、逃走する犯人の姿は都営バスのドライブレコーダーにも映っていました。それだけに、犯人はすぐに逮捕されるはずと高を括っていたんですが……。
犯人は自転車だったのできっと近くにいたはずです。あれだけの情報がありながら、なぜこんなに長い間、逮捕に至らないのか。悔しくてなりません」
ため息をつきながら語るのは、川崎陽子さん(50代・仮名)です。

事故瞬間の画像。ドライブレコーダーの映像から切り抜いた。自転車の男性は事故後、「ごめんなさい」と言って走り去ったという
本件は、3年前の10月18日、午後3時半頃に発生しました。以下は、現場正面のビルの防犯カメラに映っていた衝突前後の映像を編集したものです(メインの動画は見やすくするため拡大し、オリジナルの動画は左下のカコミに表示しました)。
川崎さんは振り返ります。
「私は歩行者用の信号が青になったのを確認して、横断歩道を渡りはじめたのですが、次の瞬間、右側からものすごい衝撃を受け、アスファルトにたたきつけられました。一瞬、気を失ったようで、とっさに事態が把握できませんでしたが、かすかに顔を上げると、若い男が自転車を起こしながら、私に向かって『ごめんなさい』と言っていたので、ああ、この男の自転車にはねられたんだ、ということがわかりました」
川崎さんはすぐに車道から歩道へ移動しようとしましたが、全身に痛みを感じ、立ち上がることができなかったといいます。
「そのとき、男が自転車にまたがろうとしているのが目に入りました。私は『警察を呼ぶので、待ちなさい!』と叫んだのですが、男は再度、『ごめんなさい』と言うと、そのまま自転車に乗って走り去ったのです」
「自転車でのひき逃げは犯人が見つからないことが多いので…」
その後、川崎さんは通りかかった人に介抱され、救急車で搬送されました。幸い、骨折はありませんでしたが、映像を見ると相当の衝撃を受けていることがわかります。もし頭部を強打していたら、重篤な状態に陥っていたかもしれません。

東京・池袋の事故現場付近
「目撃者の方の話では、男は衝突した後、『やべぇ!』という言葉を発していたそうです。自分の過失で人をはねたことを認識していながら、被害者を路上に置き去りにして逃げるなんて、あまりに卑怯です」
事故現場には今も、『目撃者を捜しています』と書かれた古びた看板が立てられています。しかし、それ以上に積極的な捜査は行われている様子がないと川崎さんは言います。
「実は、所轄の目白警察署からは当初、捜査は半年で打ち切り、この看板も半年で撤去すると言われていました。私は、『SNSで目撃情報を募るとか、何か動いてもらえませんか』とお願いしましたが、返ってくるのは、『自転車でのひき逃げは犯人が見つからないことが多いので』という消極的な言葉でした。

事故現場近くに立つ、目撃者に情報提供を呼び掛ける看板(筆者撮影)
警視庁にも足を運びましたが埒が明かず、結局、自分でビルに出向いて防犯カメラの映像を入手し、メディアで公開していただくなど動いてきました。でも、3年間、まったく手掛かりはつかめないままなのです」
犯人から賠償を得ることもできず
「ひき逃げをしても、まず逃げ切ることはできないはず」
多くの人は、警察のドキュメンタリー番組などで「地を這う捜査」の様子を視聴し、そう信じているのではないでしょうか。
たしかに令和5年、死亡ひき逃げ事件の検挙率はほぼ100%でした。しかし、被害者が死亡していない場合は、犯人が検挙されず、泣き寝入りを強いられている被害者がいるのもまた事実です。
令和6(2024)年版の「犯罪白書」によれば、ひき逃げ事件(人の死傷を伴う交通事故に係る救護措置義務違反)の発生件数は、平成12年以降急増し、17年からは減少傾向にありましたが、令和3年以降、再び増加し続け、令和5年は7183件となっています。
全検挙率(死亡、傷害含む)については、平成16年に25.9%という極めて低い記録を残した後、上昇傾向にあり、令和5年は72.1%まで上がっています。しかし、それでも4件のうち1件は未解決のままということになり、被害者は賠償を受けることもできず、悶々とした時間を過ごしながら、過酷な状況に置かれているのです。

ひき逃げ件数と検挙率の推移(令和6年版 犯罪白書より)
やっと見つけた整体院が突然閉鎖
あの事故以来、川崎さんは身体の痛みと向き合い続けてきました。そんな中、この夏、二次被害ともいえる出来事に遭遇し、さらにやりきれない思いにさいなまれているといいます。
「これはあくまでも私事なのですが、事故後、やっと自分に合った整体院を見つけてケアしていたのですが、その整体院がまさかの突然閉鎖で、本部とは連絡すら取れない状況になってしまったのです。この騒動は、先日、以下のニュースにもなっていて驚きました」
(外部リンク)有名人も通う整体院「Filament」が突然の閉鎖 関係者に広がる混乱、「前払い金」被害を訴える利用者も【取材ルポ】(帝国データバンク) - Yahoo!ニュース(2025.8.23)
「私も閉鎖する直前に回数券を購入し、まだたくさん残っているのですが、直営店は軒並み閉鎖。フランチャイズ店では対応できないとのことで、返金すらしてもらえません。お金の損失も痛いですが、また一から、自分に合った整体院を見つけなければならず、落ち込んでいます。あのひき逃げにさえ遭わなければ、こんな被害に遭うこともなかったのに。私は交通ルールを守って横断歩道を渡っていただけなのに……」
自転車による事故、命にかかわることも
自転車の絡んだ重大事故は、今も起こり続けています。
10月8日、千葉県八千代市で、自転車で歩道を走っていた小学生が別の自転車とすれ違った直後に転倒し、トラックにひかれて亡くなりました。
(外部リンク)「車道に転倒してきた」自転車の少年がトラックにひかれ死亡 歩道で自転車同士が接触か 千葉(FNNプライムオンライン 2025.10.9)
また、10月10日の朝、東京都杉並区では、通学途中だった男子高校生(17)の自転車が歩行者の高齢女性と接触し、転倒した女性が頭などを強く打って死亡するという事故が発生しています。以下の新聞記事によると、自転車のハンドルが当たった弾みで、女性は転倒したとみられ、男子生徒は「坂を上るために下を向いて漕いでいた」と話しているそうです。
(外部リンク)通学中の高校生の自転車が接触か 高齢女性が転倒し死亡 東京・杉並(産経新聞 2025.10.14)
川崎さんは語ります。
「最近、自転車に対する罰則が厳しくなり、不満を口にする方も多いようです。でも、自転車といえども、ひとつ間違えば重大事故につながることを忘れないでください。
私は、信号無視をした自転車にひき逃げされました。命は助かったものの、日常が大きく変わってしまいました。車の場合、ひき逃げの時効は7年ですが、自転車は3年だそうです。でも、被害者としては、犯人が逃げている以上、ひき逃げの時効は何としても撤廃していただきたいです。そして犯人には、自分のしたことに責任を持ち、1日も早く出頭してほしいと願っています」
ひき逃げは時効を迎えてしまいましたが、自転車の場合、過失傷害罪の時効は5年。つまり、本件の捜査は継続中です。心当たりのある方は、ぜひ目白警察署へご一報ください。
<池袋・自転車による歩行者ひき逃げ事件の詳細と犯人の特徴>
●発生日時/2022年10月18日午後3時27分頃
●事故現場/東京・南池袋3丁目の横断歩道
●犯人のルート/池袋駅方面から目白方面へ走行中に事故。そのまま目白方向へ。その後、路地へ入って逃走
●犯人の特徴/20歳くらいの男性
●自転車/赤色のスポーツタイプの自転車
●着衣/黒い上着
●連絡先/目白警察署 交通捜査課係 03-3987-0110(内線4252)
 
			 
					
