犯罪の遺体や傷の写真がイラスト化? 裁判員裁判における「刺激証拠」の扱いに懸念 議論の行方は… #エキスパートトピ
2025.11.24(月)

11月15日、『「刺激証拠」のイラスト化 隠される真実』と題したシンポジウムが都内で開かれ、元裁判官、元検察官、弁護士、殺人事件の遺族、日本とドイツの刑事法医学者らが登壇。それぞれの立場から現在の裁判員裁判に対する問題提起が行われ、議論が交わされました。
直後には新聞やテレビなど多数のメディアがこの問題を取り上げていましたが、そもそも「刺激証拠」とは何なのか、なぜ犯罪の証拠がイラスト化されるようになったのか? その背景と、現在専門家が懸念する問題点、犯罪被害者、遺族の切実な思いについてまとめました。
ココがポイント
裁判員裁判制度は、法廷で遺体の写真や凶器といった「刺激証拠」を示さず、イラストで代替する運用が定着しつつある
裁判員裁判で、殺人現場の写真を見たことなどで「急性ストレス障害」になったとして、元裁判員の女性が国に損害賠償を求めていた
写真さえ見てもらっていれば、被告人が言っていることと傷の状況が合致しないことはすぐにわかったと思います
背景には、裁判官による裁判員への過剰すぎる配慮があると考える。"接待"に近いものになっているとすら感じている
エキスパートの補足・見解
2009年5月に裁判員裁判が始まってから今年で16年。スタートした当初は現在のように証拠写真をイラスト化するようなことはなかったといいます。
ところが2013年、裁判員を体験した60代の女性が、強盗殺人事件で遺体のカラー写真を見たことによりPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとして、慰謝料を請求する国賠訴訟を起こしました。本件では結果的に原告が敗訴しましたが、この訴訟をきっかけに事態が一変し、裁判所は被害者の遺体や血のついた凶器、現場の写真のほか、司法解剖の写真まで「刺激証拠」と称し、そのままでは証拠として採用しなくなったというのです。
こうした現状に対して、刑事裁判に関わる法律家や医師からは、「事件の真実を見極めるうえで最も客観的、科学的、直接的な証拠を加工することは許されない」という批判の声が上がっています。
今回開催されたシンポジウムでは、娘を殺害された母親がビデオメッセージを寄せ、「遺体の写真をイラスト化せずに見てもらっていれば犯人の殺意が明らかになったのでは」と悔しさを滲ませました。
裁判官による裁判員への配慮はどの程度まで必要なのか、運用や制度改正は必要なのか。注目すべき問題です。
