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【美女木多重事故】瞬間映像 玉突き6台目の女性トレーラー運転手が水際で食い止めていた被害拡大

2025.11.28(金)

Yahooニュース記事はこちら

【美女木多重事故】瞬間映像 玉突き6台目の女性トレーラー運転手が水際で食い止めていた被害拡大

 まずは以下の動画をご覧ください。

 2024年5月14日午前7時30分頃、首都高速美女木ジャンクションで起こった多重衝突事故の瞬間を、玉突きされた6台目の被害車である大型トレーラーのドライブレコーダーが記録していたものです。

 前方で渋滞が起こっていたため、ゆっくり減速をしていた総重量23.5トンの大型トレーラーが、突然後ろから衝撃を受け、その大きな車体が大きく前方へ押し出される様子が映っています(映像は一部加工し編集しています)。

 幸いにも十分な車間距離が取られていたため、前車への追突は免れています。しかし、もし車間が詰まっていたら、前の乗用車も玉突き追突に巻き込まれ、前車との間に挟まれていたかもしれないのです。

 この映像を提供してくださったのは、本件事故の被害者の1人である大型トレーラー運転歴30年のドライバー・山口満里子さん(52)です。

 山口さんは追突事故に巻き込まれた直後の様子をこう語ります。

「突然、ドン! という強い衝撃を後ろから受けました。事故だと思った私は、まず、配送が遅れることを会社に連絡しなければと、運転席から降りてスマホのビデオカメラを起動させました。現場の状況を報告しようと思ったのです」

 ところが、後方を振り返ると、すでに激しい炎と黒い煙が上がっていました。とっさに、何が起こっているのか把握できないまま、山口さんはすぐ後ろのトラック運転手と共に、4台目のトラックの中で意識を失っていた運転手を引き出し、救出したといいます。

「乗用車の火の回りはとても早く、現場はものすごく熱かったです。1人を助け出すので精一杯でした……」

■被害者の一人として、あの日見たことを証言

 実は、山口さんは事故から1年経った今年5月、私が書いた下記の記事を読み、心を揺さぶられたのだといいます。

お父さんが作った最後のハンバーグ… 美女木JCT追突炎上事故から1年、妻が語るあの日【前編】(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース

「あの事故で亡くなった被害者がどんな方だったのか、そして、残されたご家族がこんなに辛い思いをされていたことを柳原さんの記事で初めて知りました。私にも同世代の子どもがいるので、とても胸が痛みました。加害者が現場で一切救護活動をしていなかったことを私ははっきり目撃しています。現場にいた当事者の一人として、刑事裁判に何か協力できることはないかと思い、記事を読み終えてすぐに裁判所に連絡したんです。そして、検察を通して陳述書をまとめ、証言台に立つことになったのです」

事故直後、トラックの運転席に座ったままの降籏被告。無傷だったにもかかわらず、なかなか降りてこようとせず、運転席で何かを探している様子だった。降りてからも被害者を救護する様子はまったくなかったという(山口さん提供)

事故直後、トラックの運転席に座ったままの降籏被告。無傷だったにもかかわらず、なかなか降りてこようとせず、運転席で何かを探している様子だった。降りてからも被害者を救護する様子はまったくなかったという(山口さん提供)

■車間距離を取り、予測運転することの大切さ

 結果的に玉突きに巻き込まれた6台のうち、3台の乗用車が炎上。それぞれの車を運転していた3名の男性が死亡し、山口さんを含む3名の大型ドライバーが重軽傷を負う大惨事となりました。現場は24時間にわたって通行止めが続きました。

 この大事故を引き起こしたトラック運転手・降籏紗京被告(29)は、事故直前からふらついて運転し、何度も路側帯のラインをふんでいました。数日前には飲酒運転をして愛人に会いに行き、その女性から風邪をうつされ、その後、自身も高熱を出しながら、ほとんど睡眠をとらず数百通にわたるラインを繰り返していたことがわかっています。さらに、事故当日は運転中も片手でLINEメッセージを送っていました。

 そして、挙げ句の果てに、風邪薬の影響で居眠り運転をし、渋滞の最後尾にノーブレーキで突っ込んでいったのです。まさに、車間をあけるどころか、その距離を「ゼロ」にしてしまった末のありえない惨事でした。

 被告には、自身が破壊力の大きな大型車を操っているという認識はなかったのでしょうか。

 一方、山口さんの運転は、降旗被告のそれとはまったくレベルが違うものでした。

 私は冒頭のドライブレコーダー動画を見せていただいたとき、大型車を運転するプロドライバーとしての意識の高さと矜持(きょうじ)に感銘を受けました。

 常に周囲の状況を把握し、最悪の事態をも予測して車間距離を十分に取っていたことで、本件事故による被害のさらなる拡大を食い止めていたのです。

 ちなみに、この動画はトラックの業界団体でも紹介され、車間距離を十分に確保することの大切さを周知させるために使われたそうです。

 私たち一般ドライバーも、ぜひ脳裏に刻んでおくべき貴重な動画だと言えるでしょう。

■7年6カ月の実刑判決を不服として控訴してきた被告

 11月4日、「過失運転致死傷罪」に問われていた降籏被告に、法定刑を超える禁錮7年6カ月の実刑判決が下されました。

 東京地裁の大川隆男裁判長は、「交通法規を遵守する意識が低く、前例にあまりないほど犯情が悪い」などと厳しく糾弾。さらに、判決文を読み上げた後、「あなたは自分の犯した重大な罪を認識していない」「通り一遍の謝罪は、誰の心にも響かなかった。取り返しのつかない重大な結果に真摯に向き合うべき」と厳しい言葉で説諭しました。

 しかし、その言葉は届かなかったのか、被告は控訴してきたのです。

「本当に、落胆と怒りでしかありません……」

 本件事故の遺族のお一人から、私のもとに届いたメッセージです。

 東京高裁でまもなく始まる予定の控訴審で、降籏被告は何を主張するのでしょうか。引き続き取材を続けたいと思います。

本件事故で玉突き衝突に巻き込まれ死亡した杉平裕紀さん(42)の車。衝撃の大きさが見て取れる(遺族提供)

本件事故で玉突き衝突に巻き込まれ死亡した杉平裕紀さん(42)の車。衝撃の大きさが見て取れる(遺族提供)