【裁判がおかしい】飲酒逆走運転で娘奪われた母の怒り「血が写った写真は証拠採用されず」そして犯人に驚きの軽い刑
2025.11.29(土)

ドラレコや防犯カメラ映像も「刺激的過ぎる」と証拠採用されないことも、こんな裁判員裁判で真実究明ができるのか
刑事裁判の現場ではいま、有罪・無罪の事実認定や量刑に影響を及ぼしかねない深刻な問題が起こっている。被害者の遺体や傷口、血だらけの現場や凶器の写真、犯行の映像などが、裁判員の心にトラウマを残す「刺激証拠」とされ、イラストなどで代用するケースが増えているというのだ。11月26日には国会でもこの問題が取り上げられた。そんな中、「イラスト化以前に、刺激証拠が裁判からすべて排除された」と無念さを訴える被害者遺族もいる。ノンフィクション作家の柳原三佳氏が取材した。
国会質問でも指摘された「刺激証拠」の問題
11月15日、〈「刺激証拠」のイラスト化 隠される真実〉と題されたシンポジウムが都内で開かれました。当日の模様は、以下の記事で取り上げたとおりです。
(参考)犯罪の凄惨さ伝える写真は「刺激証拠」、裁判員が衝撃受けぬようイラスト化…遺族憤慨「それで真実究明できるのか」(JBpress 2025.11.21)
そして、この記事の発信から5日後の11月26日、国会の衆議院法務委員会で、この問題が取り上げられました。
質疑に立ったのは、自民党の高村正大衆議院議員。高村氏は冒頭、前出のシンポジウムにビデオ出演した遺族の体験(22歳の娘が知人男性にゴルフクラブで殴打され死亡)を例示した後、法務省と法務大臣に答弁を求めました。
以下、そのやりとりから一部抜粋します。
高村議員 裁判員裁判において被害者のご遺体の写真や血のついた凶器などの客観証拠が、いわゆる刺激証拠という名のもとに、ほとんど証拠採用されていないという問題について認識されているか。
法務省(佐藤淳刑事局長) 刺激証拠という用語については法令上の用語ではないので、どのような証拠が刺激証拠に該当するかについて統一的な見解は存在していない。その上で、近時、裁判員裁判において、被害者のご遺体の写真や凶器等のほか、被害者のけがの写真や犯行時に録音された音声、犯行現場の防犯カメラ映像なども含めた広範な証拠が、いわゆる刺激証拠ということで、証拠採用されにくい傾向にあるとの指摘があることは承知している。
高村議員 こうした現状に対して、検察ではどのように対応しているのか。
法務省(佐藤刑事局長) 検察当局においては、ご遺体の写真や凶器、犯行時の音声や映像などの客観証拠について、個別の事案に応じて裁判員に与える心理的負担の観点にも配慮しつつ、事案の真相を明らかにするという刑事訴訟法の目的を踏まえながら、立証すべき事実との関係でこれを取り調べる必要があると認められる場合には、当該証拠が適切に採用されるよう裁判所に求めるなどの対応に努めているものと承知している。
高村議員 必要な証拠が、いわゆる刺激証拠の名の下に取り調べられないということは、刑事裁判が真相解明のためにあるということをないがしろにしかねない。他方で裁判員の精神的負担を軽減することにも十分配慮する必要がある。制限ではなく、例えば裁判員証拠を見せる際の事前の説明やアナウンス、証拠を見た直後に裁判員同士で自身の心情を打ち明け合うなどの事後的なメンタルケアなどを駆使して行うべきだと思う。
平口洋法務大臣 刑事訴訟の目的が十分に果たされるようにしつつ、裁判員の精神的負担へのケアを考えていく必要がある。一般論として、事案の真相を明らかにするため、必要な証拠が公判定に提出され、それにより適正な事実認定や量刑判断が行われることで、刑事訴訟の目的が果たされるものと考えている。私自身今後も引き続き十分な関心を持って裁判員裁判の運用状況を見守ってまいりたい。
署名集めて「過失運転致死傷罪」から「危険運転致死傷罪」へ訴因変更を実現させたが
以上の通り、今回、高村議員が行った質疑によって、法務省も現状の問題を把握していることが明らかになりました。しかし、刑事裁判の目的を考えれば、裁判員の精神的負担を軽減することより、まずは証拠に基づいた「事実の認定」こそ重視されるべきだという強い意見があることも事実です。
「そもそも、『裁判員に配慮する』という言葉自体、犯人側にとって一番の特権になっているのではないでしょうか。被害者の遺体写真が刺激証拠? とんでもないことです。これを見ないで、何が分かるというのでしょう」
厳しい口調でそう語るのは、10年前、飲酒逆走事件で娘の恵果さん(当時24)を失った母親の河本友紀さんです。
看護師だった長女の河本恵果さんが、大阪市中央区のアメリカ村で命を奪われたのは、2015年5月11日のことでした。一方通行を逆走するかたちで駐車場から飛び出してきた加害車が、自転車で走行していた恵果さんに突然突っ込み、恵果さんは頭部を轢かれ死亡。恵果さんと一緒に自転車で走っていた友人の女性も腕を骨折する大けがを負いました。

夜が明けて撮影された凄惨な事故現場(遺族提供)
自動車運転処罰法違反(過失致死傷)容疑で現行犯逮捕されたのは25歳の女でした。呼気からは、基準値を超える0.25mgのアルコールが検出されたといいます。
河本さんは振り返ります。
「加害者は当初、『過失運転致死傷罪』で起訴されたのですが、泥酔状態での逆走という悪質さだったことから、私たちは納得できず、署名活動を行い検察に上申しました。その結果、裁判の途中で、『危険運転致死傷罪』に訴因変更され、公判は裁判員裁判で行われることになったのです」
被害者に寄り添うより「裁判員への配慮」、凄惨な写真どころか成人した娘の写真さえも…
ところが、大阪地裁で開かれた裁判では、血液が写り込んだ写真はすべて排除され、裁判員はそれらの写真を1枚も見ることはなかったといいます。
「恵果の遺体写真はもちろん、発生直後の現場写真も、とにかく血が流れているのは全部だめだというんです。もう、イラスト化以前の話です。『裁判員への配慮』という言葉を何度聞いたかわかりません。裁判所は被害者に寄り添うどころか、加害者の味方なんですか? そう問いたくなりました」

警察の調書の写真も「血だまり」が写っているという理由で排除された
それだけではありません。河本さんが恵果さんの生前の写真を証拠として提出しようとしたところ、『裁判員の心情に配慮しなければならない』との理由で、大幅に制限されたというのです。
「「私は恵果の写真を20枚提出していました。ところが、公判前整理手続きで証拠採用されたのは6枚だけ。しかも、すべて子ども時代の写真でした。
恵果は亡くなったとき、24歳の女性でした。婚約者もいましたので、彼氏との写真も出していました。
それなのに、裁判官は表情ひとつ変えず、『かわいそうと思われたらいけないので、裁判員の心情に配慮します』と言ったのです。思わず、『それってどういうことですか? 婚約者との写真もだめなんですか』と言い返したのですが、『決まったことなんで』と返されました。私たち遺族への配慮はないのでしょうか……」

もう一人の被害者の調書も公判では黒塗りに
署名集め「危険運転致死傷罪」への訴因変更を勝ち取ったのに肝心の判決は…
恵果さんが命を奪われたこの事件は、裁判の途中で「危険運転致死傷罪」(当時は最高懲役20年)となり、裁判員裁判になったことが大きく報じられました。しかし、最終的にどのような判決が確定したのか、その詳細はあまり知られていません。
河本さんは語ります。
「当時、報道を見た方の多くは、被告にさぞ重い刑罰が下されたと思っておられるでしょう。でも、実際はそうではありませんでした。
大阪地裁の飯島健太郎裁判長は、結果的に危険運転ではなく、『過失』と判断し、懲役3年半(360日の未決拘留含む)という判決を下しました。判決文には、『反射的な行為をした際の不注意によるもので、とりわけ悪質とまでは言えない』『被告人が運転しようとしていた距離も短いので、酒気帯び運転の中で悪質とまでは言えない』などと書かれていました。
娘の命を馬鹿にされているようで、悔しく、悲しくてたまりませんでした。その上、『遺族感情は峻烈だが、事故は悪質ではない』と書かれたことで、SNS上では私たち遺族をただのクレーマーのように叩く人たちもいたのです」
裁判官から検察官に暗に圧力?
「裁判員に事実を直視してほしい」という被害者遺族の思いは、なぜ届かないのでしょうか。中には、「検察官が証拠調べ請求を怠っているからではないか?」という声もあるようです。
しかし、今回のシンポジウムを主催した「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」事務局長兼代表代行の髙橋正人弁護士は、こう指摘します。
「実は、公判前整理手続きの段階で検察官は裁判官から、『証拠調べ請求しても、却下しますよ』と、暗にほのめかされているのです。だから、先に諦めてしまっている。ところが、この手続きは密室で行われているので、外からは見えづらい。
それを逆手にとって、裁判所は、『検察官が取調べ請求をしないから出ていない』と言うのですが、実態は全く逆です。最高裁が各裁判所に出させないよう暗に指導しているとしか思えないのです。この問題を改善するには、こうした実態を押さえておく必要があります」
2009年に裁判員裁判がスタートしてから16年。当初は真相発見のため遺体の写真も証拠として扱われ、裁判は厳正に行われていました。ところが、2013年3月、福島地裁郡山支部で開かれた強盗殺人事件の公判で、裁判員の女性が遺体のカラー写真を見てPTSDになったと主張し、慰謝料を請求する国家賠償請求訴訟を提訴しました。
その後、裁判所が極度に萎縮し、遺体写真などを「刺激証拠」としてそのまま採用しなくなったことは、前回の原稿でも触れたとおりです。
防犯カメラ映像も証拠採用されず、ときに法廷は検察官による「学芸会状態」に
髙橋弁護士は、この傾向は近年エスカレートしていると警鐘を鳴らします。
「最近は、危険運転致死傷罪の事故の様子が鮮明に記録されているドライブレコーダーや凶悪犯罪の一部始終が映っている防犯カメラの映像など、事故態様を明らかにしたり、犯人を特定したり、強い殺意を認定したりするためのベストエビデンスとなる客観証拠・直接証拠が一切採用されなくなっています。
では、それらをイラスト化して証拠申請するしかない検察官は、いったいどうやって立証していると思われますか? 信じてもらえないかもしれませんか、犯人が棒で被害者を何度も打撃している音声を、検察官が法廷内で、『ドンドン、バンバン、ドスン!』と、声を上げて再現せざるを得ないのです。まるで幼稚園の学芸会です」

シンポジウムで脳神経外科医が示した開頭時のイメージイラスト。これでは硬膜下血腫の状況を伝えることができない(高橋弁護士提供)
なぜ、そこまでして重要な証拠を隠さなければならないのでしょうか。先日のシンポジウムでは、裁判官が過剰に裁判員に配慮した「接待裁判」となっているという指摘もなされました。
娘の恵果さんを亡くした河本さんは語ります。
「どれだけ月日が流れても、血まみれの変わり果てた恵果の遺体と対面したあの日から、私の心は止まったままです。遺体の写真だけでなく、現場の写真すら裁判員に見せず、飲酒逆走死亡事件を『悪質とまでは言えない』と言い切った判決文を、私は今も受け入れることはできません。こんなお飾りの裁判員裁判ならいらないです」
