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なぜ「安全確認窓」を塞ぐのか…。違法改造ダンプの左折巻き込み事故で中1死亡 父が執念の調査

2026.1.13(火)

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なぜ「安全確認窓」を塞ぐのか…。違法改造ダンプの左折巻き込み事故で中1死亡 父が執念の調査

「事故の知らせを受けて病院に駆け付けると、妻は泣きながら息子の無事を必死で祈り、私の到着を待っていました。間もなく担当の医師に呼ばれ、心肺蘇生を受ける息子・晴琉(はる)と対面できましたが、医師からは『事故の衝撃で頭部を激しく損傷しており、助からないと思います』と告げられました。

 晴琉は幼い頃から生き物が大好きな、優しい子でした。将来は生物博士になりたいという夢を私たちも応援し、自然や生物を守るイベントに参加したり、2日前には一緒に虫捕りに行ったばかりだったんです。まさか、それが最後になるとは……」

 怒りを込めた静かな口調でそう振り返るのは、4年前、息子の晴琉くん(12)を交通事故で亡くした三重県津市の平田さんです。

中学に入学してわずか2か月後、学校近くの横断歩道で左折のダンプに巻き込まれ、命を奪われた晴琉くん。幼い頃から生物博士になる夢を抱いていた(遺族提供)

中学に入学してわずか2か月後、学校近くの横断歩道で左折のダンプに巻き込まれ、命を奪われた晴琉くん。幼い頃から生物博士になる夢を抱いていた(遺族提供)

 この事故については、晴琉くんのお母さんのお話をもとに、すでに以下の記事(2026.1.6)を発信しました。

血だらけの制服を何度も洗いながら母が決意したこと 違法改造ダンプに我が子の命奪われ…【交通死亡事故】(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース

 中学校に入学してわずか2か月、晴琉くんは買ってもらったばかりのお気に入りの自転車で下校中、青信号の横断歩道上で、確認を怠って徐行せずに左折してきた大型ダンプに衝突され、車底部に巻き込まれたのです。

自宅の駐輪場に保管されている自転車を見せてくださるお父さん(筆者撮影)

自宅の駐輪場に保管されている自転車を見せてくださるお父さん(筆者撮影)

■なぜ10トンダンプが下校時のスクールゾーンに…

 平田さんは振り返ります。

「病院で警察官から事故の説明を受けました。晴琉は青信号の横断歩道を自転車で走行中に左折するダンプに巻き込まれ、悪質な運転の加害者を逮捕したとのことでした。私が『ダンプは2トン車ですか? それとも4トン車ですか?』と確認したところ、10トン車だと知らされました。あの道は小学校がすぐ側にあるスクールゾーンで、大型車が対向するには細すぎる道です。下校時間帯にもかかわらず10トンダンプが通るなんて、どうしても理解できませんでした……。

 私たちは現実を受け入れられないまま、親族や関係先へ連絡を取り、晴琉を病院から葬儀場に搬送し、親族が駆けつけてくるのを待ちました。そのとき、親族から晴琉の事故が報じられていることを知らされ、ニュースで事故直後の現場の映像を初めて目にしたのです」

 以下の画面は、お父さんがとっさにダウンロードしたものです。そこには現場検証を行う警察官の姿と加害車両と思われるダンプ、そして、前カゴがつぶされた状態で道路に横倒しになっている見覚えのある自転車や、晴琉くんのものと思われる通学カバンなどが映し出されていました。

晴琉くんのお父さんが葬儀場で初めて目にした事故のニュースのスクリーンショット(平田さん撮影)

晴琉くんのお父さんが葬儀場で初めて目にした事故のニュースのスクリーンショット(平田さん撮影)

「ニュースで初めて見たそのダンプは、外観が異様に派手で、ギラギラと光っており、ひと目見ただけでかなりの改造を行っていることが分かりました。思わず加害者の人物像が思い浮かび、悔しさとともに、何とも言えぬ不安が込み上げてきたのを覚えています」 

加害者の10トントラック。左前部で横断歩道を渡る晴琉くんをはねて押し倒し、そのまま車底部に巻き込んで進んだ(平田さん撮影)

加害者の10トントラック。左前部で横断歩道を渡る晴琉くんをはねて押し倒し、そのまま車底部に巻き込んで進んだ(平田さん撮影)

ダンプに巻き込まれ、前カゴがつぶされた晴琉くんの自転車(筆者撮影)

ダンプに巻き込まれ、前カゴがつぶされた晴琉くんの自転車(筆者撮影)

 加害者は現行犯逮捕され、2日後に勾留を解かれました。しかし、その後、処分はなかなか下されないまま、平田さん夫妻にとっては苦しい時間が流れました。

 結局、在宅起訴されたのは事故から約1年後のことでした。以下は、それを報じる新聞記事です。

●【ダンプカー死亡事故 運転の会社員を起訴 地検】

 昨年六月、津市の市道で当時中学一年の男子生徒がダンプカーにはねられ死亡した事故で、津地検は、自動車運転処罰法違反(過失致死)の罪で、運転していた市内の会社員辻谷隆容疑者(51)を在宅起訴した。五月二十五日付。

 起訴状などによると、昨年六月七日午後三時五分ごろ、同市桜橋二の信号のある市道交差点をダンプカーで左折する際、自転車に乗っていた男子生徒=当時(12)=をはねて死亡させたとされる。

 地検は認否を明らかにしていないが、現行犯逮捕された時には県警の調べに対し「左折の際、自転車と子どもを巻き込んだ」と容疑を認めていた。

(『中日新聞』 2023.6.2)

三重県津市の事故現場に佇む平田さん夫妻。晴琉くんは後方の横断歩道を横断中だった(筆者撮影)

三重県津市の事故現場に佇む平田さん夫妻。晴琉くんは後方の横断歩道を横断中だった(筆者撮影)

■なぜ「違法改造」を不問にしたのか? 司法への不信

 しかし、平田さんはこの起訴内容に、どうしても納得できませんでした。加害者が「自動車運転処罰法違反」で起訴されるのは当然のことでしたが、「道路交通法違反」(違法改造)については不起訴処分とされたからです。

「実は、加害者が乗っていた大型ダンプには、わかっているだけで違法改造が3箇所ありました。私は改造もこの事故の一因になった可能性が十分にあると思っていただけに、なぜその行為を不問にするのか、憤りを覚えました。当初、警察の捜査は被告を過失運転致死罪で起訴することだけを考えて捜査していました。おそらく起訴するには十分な証拠があったので、違法改造のほうまで調べる気がなかったのでしょう」

 平田さんは、警察で遺族調書を取られた際に、後続車のドライブレコーダーの映像を確認しており、その時点ですでに、ダンプのウィンカーの点滅速度が異様に遅いことに気づいていたといいます。

 そして事故から2か月後、警察に押収されていたダンプが会社に返却されたと聞き、社長に直接頼んで実車を見せてもらいました。その際、ウィンカーの点滅速度のほか、不正な改造が複数施されていることに気づき、警察に改めて捜査を要請したのです。

 その結果、確認できた違法改造は以下の通りです。

1)助手席の 「安全確認窓」にスモークフィルム

 大型車の助手席ドアには、左側の死角を目視で確認し、左折巻き込み事故を防止するための「安全確認窓」が設けられています。加害者のダンプには、この窓に濃い青色フィルムが貼り付けられており、さらに窓の前には工具箱が置かれ、視界を塞いでいました。

 警察が平田さんの指摘を受け、陸運支局の協力を得てこの安全窓の光の透過率を調べたところ、フィルムなしの場合81.4%(窓の内側から)、フィルムありの場合8.9%で、フィルムがいかに視認性を低めていたかは明らかでした。

「晴琉はダンプの左前で衝突され、助手席の下でダンプに巻き込まれたので、安全確認窓がクリアで、窓の前に障害物が置かれていなければ、巻き込む前に安全窓から晴琉の自転車の存在に気づけたかしれません。しかし、この状態では自転車に乗っている息子を確認できる訳がありません」

 ちなみに、平田さんが三重県トラック協会に確認したところ、安全窓の光の透過率は70%以上と規定があり、それを下回ると車検は通らないという回答でした。

左の助手席ドアの「安全確認窓」には濃いブルーのスモークフィルムが貼られ、窓の前には工具箱が置かれていたため、運転席から外部の見通しはゼロだったという(平田さん撮影)

左の助手席ドアの「安全確認窓」には濃いブルーのスモークフィルムが貼られ、窓の前には工具箱が置かれていたため、運転席から外部の見通しはゼロだったという(平田さん撮影)

2) 方向指示器の点滅速度を改造

 ウインカーの点滅は保安基準で1分間に60~120回とされていますが、このダンプは1分間24回に減らしていました。

「警察の捜査結果は、ウィンカーの点滅速度が保安基準を満たしておらず、後部ウィンカー自体が保安基準の視認性を満たさないものに交換されており、取り付け位置を純正部品の位置よりダンプ荷台下に隠れる方向に取り付けられていました。

 加害者本人も刑事裁判の法廷で改造を認めました。許せないのは、周囲から認識できない様な違法改造ウィンカーであったにもかかわらず「合図は確実におこなっていた」などと供述している点です。

 さらにこの車両には左折時のウィンカーと連動し、警告音が鳴る装置(推奨装置)が装着されていましたが、配線が緩んで音が鳴らない状態だったと警察から説明を受けました。これまでの違法改造から、警告音を意図的に鳴らさないように配線を緩めていたのではないかと思ってしまいます。

 保安基準の視認性を満たし点滅速度が正常であれば、また、推奨されている左折時の警告音が流れていれば、晴琉は左折してくるダンプにいち早く気づいたかもしれません」(平田さん)

3)後部バンパーの違法改造

 加害ダンプは、突入防止装置としての後部バンパーを取り外し、保安基準外のパーツに交換されていました。

「後部バンパーは本件事故とは直接関係のない部分ですが、加害者は車検毎に純正のバンパーをダンプに積んで自動車工場に持ち込み、車検を通すために一時的に装着。その後、すぐに保安基準を満たさないバンパーに戻すといった、悪質で計画的な行為を行なっていました。このバンパーは強度が保安基準を満たさない物であり、事実は警察の捜査結果から確認しています」(平田さん)

カスタムパーツを装着して改造された加害ダンプの後部バンパー(平田さん撮影)

カスタムパーツを装着して改造された加害ダンプの後部バンパー(平田さん撮影)

■「ダンプいじるのが趣味」車検後、改造パーツに付け替え

 それにしてもなぜ、法律で規定されている保安基準を破り、安全性を軽視してまで、こうした違法改造を行うのでしょうか。

 平田さんは怒りを込めながら語ります。

「被告は刑事裁判で、『ダンプをいじるのが趣味で、ノーマルだと格好悪いから改造する』と述べ、『会社社長からは車検の通る範囲での改造は許されていた』とも述べていました。実際に車検が通らない違法改造だらけで、被告の行なっていることは極めて悪質です。

 私が直接ダンプを見せてもらったときに、この状態で車検が通ると思っているかを社長にたずねたところ、『通ると思います』と答えました。安全管理責任者である社長にも大きな問題があると思いました。

 間近で見た10トンダンプは想像以上に大きく、こんな鉄の塊に巻き込まれたらひとたまりもないと恐怖を感じました。一瞬にして進路を塞がれ、車底部に巻き込まれ、命を奪われた晴琉は、想像できないほどの恐怖と痛み、絶望を感じたことでしょう。

 加害者は大型車を操るプロドライバーでありながら、毎年車検だけ無難に通し、常習的に違法改造を行っていたのです。加害者や会社に対してはもちろんですが、警察や検察はなぜ、こうした不誠実な行為について初動の段階で詳細に捜査し、厳しく扱わないのか、私はそのことに強い憤りを感じました」

お父さんが撮影した加害ダンプのダブルタイヤ。トレッド部はかなり摩耗していた(平田さん撮影)

お父さんが撮影した加害ダンプのダブルタイヤ。トレッド部はかなり摩耗していた(平田さん撮影)

同型の新品タイヤと上の写真を比較すると、トレッド中央部の溝が完全に摩耗していることがわかる(ブリヂストンのサイトより遺族撮影)

同型の新品タイヤと上の写真を比較すると、トレッド中央部の溝が完全に摩耗していることがわかる(ブリヂストンのサイトより遺族撮影)

■遺族の調査と申立てで、違法改造が罰金刑に

 2023年9月27日、刑事裁判の判決が下されました。裁判官は判決文に、

『被告人は、運転していた大型貨物自動車を改造していたところ、その一部は違法なものであったというのであり、交通安全に対する意識が十分であったか疑問がある』

 と記していたものの、

『自動車の運転者であれば誰しも犯してしまう危険性を有している内容のものであって(略)殊更に悪質なものではない。そうすると、本件は、被害者1名の過失運転致死の事案の中で特に刑事責任が大きいものとはいい難く、実刑に処するほかない事案とまではいえない』

 として、加害者には禁錮2年6カ月、執行猶予5年の判決が下され、確定しました。判決の詳細については以下の記事に記した通りです。

血だらけの制服を何度も洗いながら母が決意したこと 違法改造ダンプに我が子の命奪われ…【交通死亡事故】- エキスパート - Yahoo!ニュース

 判決内容に納得できなかった平田さんは、せめて違法改造について起訴され、正しく裁かれるべきだと考え、同年11月14日、検察審査会に不服申立てを行いました。その結果、改造については「安全運転義務違反」として警察に差し戻され、2024年4月、加害者に行政処分が執行。罰金が支払われました。

 しかし、もし平田さんが不服申し立てを行っていなければ、違法改造については不問に付されていたのです。

 平田さんは語ります。

「津地方裁判所の深見翼裁判官は、判決文の中で違法改造があったことにも触れ、その上で、『加害者が二度と自動車の運転をしないと述べている』ということを考慮して、執行猶予をつけました。しかし、加害者のその言葉は口先だけで、実際には欠格期間が終了する前から教習所に通い、運転免許を再取得していました。そして、晴琉の命日にも献花ひとつせず、平然と車の運転をしていたのです。私は偶然その姿を見たとき、ショックで身体が震えました」

 事故から今年で4年目、2026年1月7日には、民事裁判の第一回期日が津地方裁判所で開かれました。平田さん夫妻はこれまでの苦しみを裁判官に懸命に訴え、加害者本人に対する尋問も行われることが決まりました。

「刑事裁判での被告人の反省の言葉を、どうすれば信じられるでしょうか。なぜこの事故は起こったのか、そしてこの先、いったい誰が被告人を監督し、更生させるのでしょうか……。晴琉の無念を晴らすためにも、民事裁判ではその問題についても訴え、これでよいのか追及するつもりです」

2018年4月の春休み、大好きだった祖父母宅に帰省したときのお出かけスナップ。「あの楽しそうな晴琉くんの笑顔が、もう見られないのかと思うと胸が締め付けられます」晴琉くんは双方の祖父母にとって、たった一人のかけがえのない孫だった(遺族提供)

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 筆者はこれまで、不正改造車が引き起こした重大事故を複数取材してきました(一例は以下の記事参照)。

愛娘の車は「不正改造」の大型トレーラーにつぶされて… 車検後、あえて摩耗タイヤに履き替える悪質さ(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース

 

改造車の脱落タイヤ直撃で愛娘は今も意識不明、判決待つ父親の苦悩「加害者は無保険、口先では賠償すると言うが…」(1/5) | JBpress (ジェイビープレス)

 人の命を守り、安全を確保するために定められている基準をあえて無視し、自己の欲求を満たすために危険な改造を施している車両に関しては、その行為をおこなった所有者や運転者の責任をしっかり問うことが重要です。

 改造は、事故発生前から可視化された行為です。不正な車を発見した際の通報先として、国土交通省では『不正改造車・迷惑黒煙車を情報提供窓口』を設けています。重大事故を未然に防ぐため、ぜひ活用してください。