【時速194キロ死亡事件】ついに最高裁へ 遺族の痛烈”陳述書”全文公開「実証実験したのは亡き弟だけ」
2026.2.5(木)

すでにニュース速報が流れていますが、2021年2月、大分市の県道で発生した時速194キロ死亡事件で、福岡高検は本日(2月5日)、福岡高裁が下した控訴審判決を不服として最高裁に上告しました。
検察が上告 大分時速194キロ死亡事故 控訴審判決は「危険運転」認めず「過失運転」 最高裁が判断へ (TOSテレビ大分) - Yahoo!ニュース
本件は当初、交差点を右折中だった対向車の小柳憲さん(当時50)を死亡させたとして、当時19歳の男が過失運転致死罪で起訴されていました。しかし、納得できなかった遺族が声を上げ、危険運転致死の罪で訴因変更となり、2024年11月、一審の裁判員裁判で大分地裁は、時速194キロでの走行を「制御困難な高速度」と認定。懲役8年の実刑判決を下したのです。
以下は今から4年前の2022年8月、「過失」から「危険運転」への訴因変更を求める遺族の初めての記者会見を筆者が取材した記事です。
【緊急会見】一般道で時速194kmの死亡事故、なぜ「過失」なのですか? 弟亡くした姉が訴えたこと(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース
ところが、2026年1月22日の控訴審判決で、福岡高裁は「制御困難を判断する具体的な証明がない」などと指摘し、一審判決を破棄。過失運転致死罪を適用して、懲役4年6か月に大幅減刑となり、事実上の振り出しに戻ったのです。
危険運転から過失にされ、さらに量刑を引き下げられたことにどうしても納得できなかった遺族は、高裁判決が下されてから今日までのわずかな時間で陳述書をまとめ、署名活動を行い、その思いを福岡高等検察庁に懸命に訴えてきました。そこには、社会常識からかけ離れた判決に対する危機感と、危険な高速走行による事件で同じ苦しみを味わう被害者遺族を一人でも減らしたいという強い思いが込められていました。
今回、福岡高検が上告したことにより、その判断は最高裁に委ねられます。
まずは、遺族が渾身の思いでまとめた『陳述書』(2026年1月26日付)を以下に公開させていただきます。ぜひお読みいただき、ともに考えていただければと思います。

被害者?小柳憲さんが乗っていた車は大破。シートベルトはちぎれ、憲さんは車外放出された(遺族提供)
「陳述書」
福岡高等検察庁御中
私は、被害者の姉で、長文恵と申します。
今回の福岡高裁の判決を受けて、思いを述べさせていただきたいと思います。
1 一審は裁判員裁判で、国民の意見を取り入れた判決であったのにも関わらず、二審で棄却されました。一審の検察側の証拠(走行実験や証人の証言など)もことごとく否定されました。果たしてこの判決は正しい判決であったのか、私は到底納得のいくものではありません。
2 まず、①事故現場での実証実験についてです。
(1) 私は一般道である事故現場で194キロの走行実験を懇願したことがあります。しかしながら、それは現実的には不可能です。加害者の車は廃車となっており、高級外国車の限定車で希少性のある車と伺っていますので入手困難です。また、国内で194キロで走行出来る一般道など存在しません。そこで、サーキットでの走行実験となったのだと思います。
道路を封鎖してライトの照射実験はされております。
ドライバーについては、プロドライバーや警察官でしたが、福岡高裁の判決が指摘するように、厳密に同条件で実証実験をやれと言うのであれば、加害者本人がやるべきです。そして、ほんのわずかなハンドル操作やブレーキ操作を実験し、本当に制御出来る高速度であったのか、私としても真実を明らかにして欲しいと思います。
ただ、現実問題として、そのようなことができるとは思えません。
福岡高裁の裁判官たちは、そのような実証実験を一般道である事故現場で行うべきという無理難題を、本気で考えておられるのでしょうか。そうだとすれば、証拠不十分として差し戻す方法もあったのではないかと思います。
このような非現実的な要求をすることは、一般社会ではハラスメントといいます。実際には出来ないことを今さら指摘して、それが無いから証拠不十分だとして、大分地裁に差し戻すことさえせずに切り捨てるなど、これが日本の裁判官のあるべき姿とは到底思えません。果たして最高裁でも同じ考えなのか是非聞いてみたいです。
(2) 私は一審で、現場で唯一実証実験をやった人がいると話しました。
それは、右折車側の弟です。この速度の衝撃は、今後も誰も試せないことです。その姿を裁判官たちにも直視して欲しいと思います。こんな高速度でなければシートベルトが千切れるなど起きません。車外に投げ出されることなく、車内に残っていたら命が助かっていたかはわかりませんが、身体に与える衝撃は全く異なったものと考えます。
現場まで真っ直ぐ走ってきたからというだけで、制御出来ていたと、果たしてそのような解釈は正しいのでしょうか。
加害者は右折車に気づいたとしても僅かなハンドル操作、ブレーキ操作を一切行っておりません。自らの危険を回避したことも考えられます。初めて乗った車なわけではなく、何度もスピード超過してきたと本人が供述しており、常習性がある極めて危険な行為を繰り返していた人物であることは明らかです。
40日間で走行距離が4000キロです。仕事で車を使っていたわけではありません。普通の会社員が1日平均100キロ走れますか。速度50キロだと2時間かかりますが200キロ出せば30分です。車の特性は十分知って運転出来る経験値としては充分な走行距離です。この194キロ制御出来る速度として考えるのであれば、右折車が見えたなら故意にぶつかった。プレーキを全く踏めてないので、もしも右折車を確認出来ていないなら、高速度により視野が狭まっていたという証拠になるのではないでしょうか。
(3) 相手は対向車はいなかったと供述していましたが、ドライブレコーダーの証拠から、複数の対向車の存在も映像にはあります。夜間で景色は当然見えませんが車のライトは見えるはずです。見えなかったと嘘をついているのか、または、視野が狭まっていたとか、他の車の方がよけるべきだと考えていたという証拠になり得ると思います。
(4) 実証実験は叶わなくても、判決後に検察官がおっしゃっていたように、高性能なシミュレーターを使い、物理的観点からの検証は可能に思います。車の製造や開発に携わっている人のご意見も寄せられており、これが過失だとはあり得ないという声も聞かれます。法律の専門家には分からぬ、自動車工学の専門家のご意見も取り入れられたらと思います。差し戻して審理すべきことはたくさんあります。
4 次に、②この事故の量刑についてです。
高速度類型において、このような暴走行為は故意犯です。私は速度の数値は量刑と比例されるべきと考えます。同じスピード超過でもその速度の違いにより、悪質性、危険性は当然増します。ぶつかる車の中に何人乗っているか考えて運転している人はいません。津市146キロの走行と大分194キロの走行は果たしてどちらが悪質でしょうか。悪しき判例を今回の事故に引用するならば、一般道で最高速度での死亡事故は危険運転致死罪に問えなくても、上限の7年は可能ではないでしょうか。
5 さらに、③今後の高速度類型事故に与える影響についてです。
法改正がなされるまで、高速度類型の事故は直線道路において、この大分の事故の判例が先例となって良いのでしょうか。法制審が数値基準の試案が出されておりましたが、法改正が行われればその基準に該当することとなるのは明確です。
目の前に見える法改正と現行法でこんなにまで差が生じることは到底納得出来ません。
すでに事故に遭っている被害者がいます。遣族がいます。暴走運転による事故は、残念ながら数多く発生しています。法改正が実現するまでに、新たな被害者や遺族が生まれてしまうことは否定できません。このまま福岡高裁の判決が確定すれば、そういった被害者や遣族が、皆、社会常識からかけ離れた判決のために、泣かされてしまうことになります。
また、数値基準が設けられてもそれ以下であれば、194キロでも過失なのだからと捜査を諦めることにも繋がります。絶対にこのままで終わってはいけません。
6 私は、一審では、大分地検が、本当に一緒になって戦ってくれたと思いました。次席と担当の福井検事が、親身になって私の気持ちを聞いて下さり、何とかして 危険運転致死罪を勝ち取りたいという思いが伝わってきました。(中略)
7 以上をふまえて、要望です。
これまでの大分県警や大分地検の捜査は並大抵のものではなかったと思います。それが、福岡高裁の判決で、この5年間が一瞬にして振り出しに戻りました。
大分地検の被害者に寄り添い、なんとか相手を重い罪にという思いを私は知っています。現行法でもまだやれる可能性はあると思っています。是非、検察庁内でも議論して、上告していただきますよう切に願います。
遣族を代表して陳述書を提出します。これは、遣族全員の願いです。
■【上告決定を受けて、小柳憲さんの姉・長文恵さんのコメント】
福岡高検が、上告をしたと連絡を受けました。検察の判断に感謝するとともに、オンライン署名に賛同して下さった方々を始め、ご支援頂いた多くの方々に御礼申し上げます。遺族として、本人の無念を晴らすとともに、悪質な運転を撲滅するためにも、あのような非常識極まりない高裁判決を確定させるわけにはいかないと考えております。最高裁で、危険運転に関する正しい判断が下されるように、引き続き、力を尽くして参ります。
<参考記事>
【時速194km死亡事故】遺族の手記を全文公開 亡き弟が生身で実証した「超高速衝突」の過酷な現実(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース

本件で被害に遭い亡くなった小柳憲さん(遺族提供)
