「もう二度と運転は…」と反省を演じて減刑、そして執行猶予中に無免許運転する男たち、遺族が告発する「法廷の嘘」
2026.2.19(木)

目次
1.被害者の娘は3年目の今も意識不明、「もう運転はしない」と言った加害者は再び…
2.「執行猶予の判決は甘かったのではないか」
3.「裁判所が“見込み”で減刑するのが間違い」
4.判決文には加害者の運転に関して「殊更に悪質なものではない」と…
5.法廷で平気で嘘をつく加害者たち、裁判官はその嘘も情状酌量の理由にするのか
「もう、二度と運転はしません…」。悪質な行為で重大事故を起こした加害者の多くが、刑事裁判の法廷でそう述べ、裁判官はこの言葉を「反省」ととらえて減刑する。しかし、いざ執行猶予を勝ち取ると、何食わぬ顔でハンドルを握る者たちがいるのも現実だ。法廷での嘘、うわべだけの贖罪に、怒り、苦しむ被害者遺族たちの訴えをノンフィクション作家の柳原三佳氏が取材した。
被害者の娘は3年目の今も意識不明、「もう運転はしない」と言った加害者は再び…
2月10日の夕方、札幌に住む交通事故被害者(当時4歳女児)のお父さんから、動揺した声で電話が入りました。
「実は今日、執行猶予中の加害者が、無免許運転で逮捕されたそうなんです。裁判では、『再び運転しない。運転免許は返納した。自分に運転する資格はない』などと言っていたのに……」
お父さんによれば、過失運転致傷のほか車を不正改造した罪に問われ、2025年4月に懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を受けていた若本豊嗣容疑者(52)が、無免許にもかかわらず、昨年末、自分名義の軽トラックを複数回運転。「仕事をするためだった」と供述しているというのです。
電話の向こうから聞こえる、失望と怒りが入り交じったその声を聞きながら、私は、『やはりこの日が来たか』と、忸怩たる思いを感じていました。実は昨年末、私のもとにもこの男の無免許運転情報が匿名で寄せられていました。しかし、北海道は遠く、張り込み取材などは不可能で、結局、警察の捜査が進むのを待つしかなかったのです。
2023年11月に発生した本件事故については、昨年、以下の記事で報じたとおりです。
【参考】
・改造車の脱落タイヤ直撃で愛娘は今も意識不明、判決待つ父親の苦悩「加害者は無保険、口先では賠償すると言うが…」(2025.4.18)
・娘は改造車の脱落タイヤ直撃で意識戻らず、父独白「加害者2人は罰金刑と執行猶予、あまりに被害と罰のバランスが」(2025.6.10)
不正改造された軽自動車から脱輪したタイヤが、父親と歩道を歩いていた次女を直撃。女の子は頚髄損傷等の重傷を負い、事故発生から3年目となった現在も意識不明のままの状態が続いています。

タイヤが外れる事故を起こした軽乗用車。若本容疑者が運転していた=札幌市西区(写真:共同通信社)
さらに、加害者が任意保険未加入だったため、多額の治療費や介護費用なども支払われる見込みが立たず、家族は二重の苦しみと不安に苛まれているのです。
「執行猶予の判決は甘かったのではないか」
翌2月11日、若本容疑者逮捕のニュースは全国でいっせいに報じられました。
お父さんは弁護士を通し、以下のコメントを発表しました。
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【被害者の父親のコメント】
結論から言うと、非常に驚いているのと同時に呆れています。
「もう運転しない」と言っていた裁判から1年も経っていないにもかかわらず、再び運転してしまう神経が理解できません。そういう意味で驚いています。と同時に、若本が過去にも無免許運転をしていたことを知っていたので、「やはり」という、呆れたような感情もあります。
若本が警察や裁判所に対しても保身のために平然と嘘をつく人物だということがわかりましたので、もはや彼の言葉は信用に値しないと思っています。現状を踏まえると、やはり若本に対する執行猶予の判決は甘かったのではないかと感じます。
このように司法や行政を軽視する人間に対して、然るべき対応・処罰がなされる事を祈っています。
また、事故を起こした車の所有者であった田中に対しては、検察審査会に審査の申立てをしています。現在どのような審議等が行われているのかはわかりませんが、こんなにも無責任な行動をとる人に改造や点検を任せたのだということも踏まえてご検討いただき、田中も含めて、今一度処分を見直す契機になってくれればと思っています。
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「裁判所が“見込み”で減刑するのが間違い」
「札幌のニュースを見ました。不正改造、法廷で嘘をつく、任意保険未加入、執行猶予期間中の無免許運転、全てが自己中心的で悪質極まりない人物ですね。被告は法廷で、『再び運転しない』などと述べて、情状酌量理由として減刑されているそうですが、見込みで裁判所が減刑するのが間違っていると思います」
そう語るのは、4年前、中学に入学したばかりのひとり息子・晴琉(はる)くん(12)を交通事故で亡くしたお父さんです。

生物学者になるのが夢だったという晴琉くん(遺族提供)
事故は2022年6月、三重県津市のスクールゾーンの交差点で発生しました。
自転車で下校途中の晴琉くんが青信号の横断歩道を横断中、確認を怠って左折してきた不正改造の大型ダンプにはねられ、車底部に巻き込まれたのです。晴琉くんは頭部に損傷を受け、間もなく死亡しました。

不正改造が各部に行われていた加害者の大型ダンプ。助手席の安全確認窓にはフィルムが貼られ、窓の前には工具箱が置かれ視界は遮られていた(遺族提供)
*本件事故の概要や判決文の内容については、以下の記事に記した通りです。
【参考】血だらけの制服を何度も洗いながら母が決意したこと 違法改造ダンプに我が子の命奪われ…【交通死亡事故】(Yahoo!ニュース - エキスパート:2026.1.6)
過失運転致傷の疑いで現行犯逮捕された辻谷隆容疑者(当時50)は、2023年9月27日、津地方裁判所(深見翼裁判官)で禁固2年6カ月執行猶予5年の判決を言い渡されており、現在執行猶予中ですが、今回報じられた札幌のケースと共通点が多いというのです。
晴琉くんのお父さんは語ります。
「実は、息子の事故の加害者も、『事故後運転はしていない。今後、二度と運転免許の再取得はしない。保険以外にもできる限りの賠償をしたい』と法廷で述べ、情状酌量理由として減刑され、執行猶予判決を受けています。ですが、その言葉は口先だけで、実際には事故後から運転しており、刑事裁判の前に行政処分で免許欠格となったのですが、欠格期間が終了する前から教習所に通い、4輪と2輪の免許を再取得していました。
法廷では運転していないと嘘をついていましたが、息子の命日に献花ひとつせず、平然と車を運転する姿を偶然見かけたときは、ショックで身体が震えました。
また、賠償についても、連絡や謝罪などは一切ない状態で、こちらから面会を申し出ても『会えない。会いたくない』と言って拒否し続けています。
日々悪質な交通事故をニュースで見ますが、このような加害者は世の中に沢山いると思っています。罪を犯す人間が一番悪いのですが、この状況を見過ごしている裁判所、検察、警察、国にも大きな問題があると思います」
判決文には加害者の運転に関して「殊更に悪質なものではない」と…
ちなみに、判決文に記されていた「量刑の理由」は、以下の通りです。一部抜粋します。
『当時12歳であった被害者は、信号に従って横断歩道を自転車で横断していたものであり、特段の過失がないにもかかわらずその生命を奪われたものであって、本件における被害結果は重大である。被害者の父母がそれぞれ当公判廷で述べるように処罰感情が極めて強いことは十分に理解できる。加えて、被告人は、運転していた大型貨物自動車を改造していたところ、その一部は違法なものであったというのであり、交通安全に対する意識が十分であったか疑問がある。

事故現場は学校からほど近いスクールゾーンの小さな交差点。この道を大型ダンプが走行すること自体が危険だ(筆者撮影)
もっとも、被告人の過失は大きいものではあるが、自動車の運転者であれば誰しも犯してしまう危険性を有している内容のものであって、例えば携帯電話等の運転に関係ない物を注視していた場合のような殊更に悪質なものではない。そうすると、本件は、被害者1名の過失運転致死の事案の中で特に刑事責任が大きいものとはいい難く、実刑に処するほかない事案とまではいえない。
そして、被告人の勤務先が加入していた任意保険により賠償がされると見込まれること、被害者遺族の感情を和らげるには到底及んでいないものの、被告人が、職業運転手をやめた上、二度と自動車の運転をしないと述べるなどの諸事情を考慮すると、本件においては、検察官の求める刑に処した上で、その刑の執行を猶予するのが相当である』
裁判官は、本件について、あろうことか「殊更に悪質なものではない」と述べ、さらに、「保険によって賠償が見込まれること」や「二度と自動車の運転をしない」という法廷での被告の言葉を鵜呑みにし、執行猶予を付けた理由のひとつとして挙げていることがわかります。
晴琉くんのお父さんは悔しそうに続けます。
「証拠映像や音声などをもとに警察の捜査が行われ、その証拠を元に法廷で裁かれるべきなのに、一切の保証がない被告の発言を情状酌量理由にするのはおかしいと思います。裁判の時点で賠償が終わっているなど、すでに行われた事実だけをその理由にするべきです。被告が法廷で述べたことを情状酌量理由として執行猶予を付け、減刑するなら、執行猶予期間中は被告を監視、監督し、執行猶予期間が終わった際に再度、約束が守られているかどうかを確認しないと、法廷で嘘を言った者勝ちになってしまいます。

前カゴがつぶされた晴琉くんの自転車。遺族は今も保管している(筆者撮影)
法廷で運転免許を再取得しないと誓ったのなら、法的に再取得できないようにするべきですし、無免許運転についても、執行猶予期間中に家族の監督義務を設けたり、国が監視、監督を行ったりすべきではないでしょうか」
法廷で平気で嘘をつく加害者たち、裁判官はその嘘も情状酌量の理由にするのか
札幌の重傷事故の加害者と、津市の死亡事故の加害者には、「不正改造」という共通項がありました。いずれも、車検時はノーマルの部品で検査を通し、それを済ませてから不正改造を行う、つまり、違法行為と知りながら法律を破る「嘘つき」の確信犯です。これは「過失」ではありません。そして、こうした悪質な行為が結果的に命にかかわる重大事故につながっているのです。
それにしてもなぜ、法律で規定されている保安基準を破り、わざわざ安全性を軽視してまで、こうした違法改造を行うのでしょうか。私の取材実感では、不正改造をする運転者はもともと遵法意識が低いため、事故に対する危機感が薄く、裁判においても「宣誓」を平気で破ります。裁判官にはこうした被告たちの特性をしっかり見極めていただきたいと思います。
晴琉くんの死亡事故から4年目となった今年の1月7日には、民事裁判の第一回期日が津地方裁判所で開かれました。両親はこれまでの苦しみを裁判官に懸命に訴え、加害者に対する尋問も近々行われることが決まりました。
晴琉くんのお父さんは語ります。
「刑事裁判での被告人のうわべだけの反省の言葉を、どうすれば信じられるでしょうか。いったい、誰が被告人を監督し、更生させるのでしょうか……。きっと私たちと同じ思いをされている方が大勢いらっしゃると思います。晴琉の無念を晴らすためにも、民事裁判ではその問題についても訴え、これでよいのか追及するつもりです」

