ジャーナリスト・ノンフィクション作家 柳原三佳オフィシャルサイトHP

ジャーナリスト・ノンフィクション作家 柳原三佳オフィシャルHP

「非接触」の事故でも「ひき逃げ」で逮捕 死人に口なし食い止めた警察の捜査

1/30(土)

【Yahooニュース記事はこちら】

「非接触」の事故でも「ひき逃げ」で逮捕 死人に口なし食い止めた警察の捜査

  1月29日、以下のニュースが報じられました。

『オートバイの男性死亡…前走車の車線変更で転倒か 車運転の男をひき逃げの疑いで逮捕(Daiichi-TV(静岡第一テレビ)) - Yahoo!ニュース』

 記事によると、静岡県の袋井バイパスでバイクが転倒し、乗っていた男性が死亡。その後の捜査で、転倒の原因は、バイパスの流入口に進路変更する際、バイクの進路をふさいだ車にあるとされ、現場から逃げ去った運転手が逮捕されたというのです。

 私はこの事故を直接取材していないので詳細は分からないのですが、ドライブレコーダー、もしくは、事故現場が映り込んだ防犯カメラの映像などが決め手になったのかもしれません。

 いずれにせよ、「非接触」の交通事故でありながら、死に至る転倒の原因を作った車を突き止め、「ひき逃げ」の疑いで逮捕までこぎつけた警察には敬意を表したいと思います。

 一歩間違えば、「バイクの運転ミスによる単独転倒」で処理されていたかもしれないのです。

 警察は運転手の認否を明らかにしていないそうですが、今後の捜査で事故の真実が明らかになることを期待したいと思います。

車と接触していないが車線変更によって進路をふさがれ転倒したか

■因果関係の立証が難しい「非接触事故」

 実は、直接の接触や衝突は起こっていなくても、他車が危険な動きをし、それを避けようとした人が事故を起こす「非接触事故」は、これまでも多数発生しています

 特にバイクの場合、パニックブレーキをかけるとタイヤがロックすることがあり、非常に危険です。とっさに避けきれず転倒すると、ライダーが大けがをしたり、死亡したりすることもありえます。

 私自身、長年バイクに乗ってきましたが、恐ろしい場面に遭遇したことは何度もあります。

『もし今、大転倒しても、その直前に危険な動きをした「他車」が絡んでいたことを証明するのはまず無理だろう……』

 そう思うと、背筋が寒くなりました。

 バイク事故だけではありません。高速道路などで起こる多重衝突なども、事故のきっかけを作った先頭の車が何食わぬ顔で走り去っている場合があります。

 実際に、過去に取材した事故を振り返っても、同様のケースが多数頭をよぎります。

 なぜ、こんな直線道路で、転倒したのか。

 なぜ、こんなところで電柱に激突したのか……。

 しかし、たとえ何かを避けようとした可能性があっても、証拠がなければそれを立証することはできず、そのまま「単独事故」として処理されてしまうのです。

 中には、転倒の原因を作った他車がはっきりしているのに、「非接触」ということで、加害者が不起訴になったケースもありました。

結果は「単独事故」であっても、その直前に事故を誘引した原因があるかもしれない

結果は「単独事故」であっても、その直前に事故を誘引した原因があるかもしれない(筆者撮影)

■進路変更したトラックを避けようと転倒し、意識不明に

 今も忘れられない事故があります。
 それは、20代の女性が、中型バイクで通勤する途中の事故でした。

 幹線道路で突然、トラックが進路変更をしてバイクの前方に割り込んだため、とっさに衝突を避けようとした彼女は転倒し、そのはずみで頭を強く打ったのです。
 すぐに病院に運ばれましたが、脳挫傷によって遷延性意識障害を負い、意識不明に陥りました。

 この事故の場合、朝の通勤ラッシュ時に起こったということで目撃者も多く、急な進路変更をしたトラックは現場に停止し、取り調べを受けました。
 しかし、結局、トラックの運転手が起訴されることはありませんでした。バイクの側に「回避できる可能性があった」と判断されたのでしょう。

 ご家族は事故後、献身的に介護を続けながら、民事裁判で真実を明らかにすべく頑張られましたが、結果的にトラック側に賠償責任は認められませんでした。

 数年後、彼女は一度も目を覚ますことなく亡くなってしまいました。  もし、言葉を発することができたら、何を言いたかったでしょう……。

■車にもバイクにも「ドライブレコーダー」の装着を

  私の親しいバイク仲間も、単独事故で複数名亡くなっています。
 事故の直前、幅寄せされたり、あおられたりした可能性はないのか、考えることがあります。
 もちろん、その疑いはバイク乗りの単なる「直感」と「疑念」に過ぎません。

「非接触事故」の因果関係を立証するのは極めて困難です。しかし、「非接触事故」は間違いなく存在します。

 このリスクから我が身を守るには、やはりドライブレコーダーを装着することに尽きるでしょう。
 最近は、バイク用のドライブレコーダーも充実し、バイクの車体に着けるタイプ、ヘルメットに着けるタイプなど、さまざまな機種が出ています。
 万一のために、ぜひ備えておくべきです。

 また、たとえ単独事故であっても、後続車や対向車のドライブレコーダーに原因究明につながるような映像が残っている可能性があります。
 事故発生時、現場近くを通られた方には、情報提供というかたちで協力していただきたいと思います。

 何より、自身の運転が原因で他車の事故を誘引した場合は、たとえ「非接触」であっても、責任があることを忘れないでください。そのまま走り去れば「ひき逃げ」の罪に問われるのです。

 初動捜査を行う警察には、冒頭で取り上げたニュースのように、たとえ「単独事故」であっても、ぜひ、もう一歩踏み込んだ慎重な捜査をお願いしたいと思います。