ジャーナリスト・ノンフィクション作家 柳原三佳オフィシャルサイトHP

ジャーナリスト・ノンフィクション作家 柳原三佳オフィシャルHP

沖縄で発生した多重衝突の死亡事故 母子を直撃した支柱の正体とは…

2021/2/13(土)

【Yahooニュース記事はこちら】

沖縄で発生した多重衝突の死亡事故 母子を直撃した支柱の正体とは…

 2月11日午後、沖縄から大変痛ましい交通事故のニュースが飛び込んできました。  浦添市の国道で、大型ダンプが対向車線に進入し、5台が絡む多重衝突事故が発生。幼い男の子と若い女性が死亡、ダンプの運転手が意識不明、他3名がけがをしたというのです。

 翌日の地元紙『沖縄タイムス』には、事故の状況が詳しく書かれていました。

ダンプカー多重事故 男児ら2人死亡 運転の60代男性は意識不明の重体(沖縄タイムス)

 上記記事によれば、10トンのダンプカーが国道330号を那覇市方面に南下中、進行方向にいた乗用車にぶつかった後、 対向車線に設置された門型の標識の柱に衝突。他の乗用車と軽乗用車2台が標識の下敷きになり、ダンプカーはさらに、対向の軽乗用車にも衝突したとのこと。

「沖縄テレビ放送」のニュース映像より(筆者撮影)

「沖縄テレビ放送」のニュース映像より(筆者撮影)

 国道を普通に直進していただけの対向車にとっては、まさに不可抗力の事故です。

 突然、目の前に飛び出してきたダンプカーはもちろん、上から鉄の塊が落下してくるなど、予測できるはずがありません。どんなに安全運転していても避けることのできない、大変不幸な事故です。

 お亡くなりになられた被害者やご家族においては、どれほど悔しい思いをされていることでしょうか……。

■対向車を直撃したのは「速度違反自動取締装置」だった

 この事故が発生してから数時間後、私のもとに知人から以下のメールが届きました。

  悲しい事故が沖縄で起きてしまいました。  事故自体はあくまでもダンプカーの中央線突破が原因ですが、結果的に「オービスのアーチ」によって死亡事故が引き起こされました。  そこにオービスがなければ、被害者の方はアーチの下敷きにならなかったと思います。

 メールに添付されていたのは、今から5年前(2016年3月)に今回の事故現場となった浦添市伊祖4-14(国道330号線、北行き)で撮影された「2連Hシステム RS-2000A型」(三菱電機製)というオービスの写真です。

 冒頭で紹介した『沖縄タイムス』の記事では、「門型の標識の柱」と表記されていましたが、今回の事故で倒壊し、2台の車を押しつぶしたのは、「オービスのアーチ」だったのです。

2016年3月に撮影された事故現場の写真には、倒壊したオービスのアーチが写っていた(撮影/礼田計氏)

2016年3月に撮影された事故現場の写真には、倒壊したオービスのアーチが写っていた(撮影/礼田計氏)

2021年2月11日の事故を報じる「琉球朝日放送」のニュース映像。上の写真のオービス機器が落下している様子がはっきり映っている(筆者が画面を、撮影)

2021年2月11日の事故を報じる「琉球朝日放送」のニュース映像。上の写真のオービス機器が落下している様子がはっきり映っている(筆者が画面を、撮影)

「オービス(ORBIS)」という言葉は、ドライバーの方なら聞いたことがあると思います。ラテン語で「眼」を意味するのですが、日本では、「速度違反自動取締装置」のことを指しています。

 これは、スピード違反をした車を取り締まる測定器で、制限速度を超える速度で走行してきた車を検知すると、自動的に写真撮影をして記録するものです。

 実際にオービスでの取り締まりによって、高い罰金や反則金を支払った人もおられるでしょう。

 設置されているのは高速道路だけではありません。注意して見ていると、一般道にもさまざまな場所に設置されています。

 今回の事故の原因は、あくまでも速度超過で対向車線に飛び出したダンプカーにあります。しかし、皮肉にも、警察がスピード違反を取り締まるために設置していたオービスのアーチが、ダンプカーの衝突によって根元から折れ、下を走っている車を巻き込むという被害を生んでしまいました。

 ちなみに、「RS-2000A型」のメーカーである三菱電機は、2008年に同事業からの撤退を表明し、すでに長い年月が経過しています。それもあってか、近年ではオービスを稼働させず「ダミー」のまま設置されているものも多いそうですが、今回の現場のオービスがどのように運用されていたのかは不明です。

定期的に行われるオービスの点検作業。白い四角い板状のものが「平面アンテナ(レドーム)」と呼ばれるアンテナだ(撮影/礼田計氏)

定期的に行われるオービスの点検作業。白い四角い板状のものが「平面アンテナ(レドーム)」と呼ばれるアンテナだ(撮影/礼田計氏)

■懸念される「オービス(速度違反自動取締装置)」の老朽化

 以下は、少し前のデータですが、「速度違反自動取締装置の整備状況」(2016年)について表した円グラフです。

 全国に設置された、「オービス(速度違反自動取締装置)」のうち、半数以上の53%が耐用年数を超え、老朽化が進んでいるというのです。

警察庁のウエブサイトより

警察庁のウエブサイトより

 2017年 6月20日付の「警察庁行政事業レビュー公開プロセス」には、「速度違反自動取締装置」について、当時の交通指導課長の次のような発言が残されています。

「平成28年度末現在で全国に345台が設置されております。そのうち53%が耐用年数を超えている状況です。この老朽化が現在抱える課題であり、更新の必要性を個別に検証した上で、計画的な整備が必要となっております」
「更新 につきましては、耐用年数、老朽化の程度を踏まえ、更新の必要性を個別に判断しているところでございます。高速は国費による整備でございますが、国費補助による整備である一般道路につきましては、道路事情の変化も激しいことから、各都道府県警察の要望として必要性の高い新規整備を更新よりも優先する傾向が見られます」

「オービスの老朽化」がどのような問題を引き起こすのか、具体的にはわかりませんが、ここ数年、すでに使用されなくなったオービスの撤去や、下の写真のように、オービスから電光掲示板への付け替え等が進められています。

国道58号線(名護市数久田)、海沿いの道に設置されたアーチ(2016年撮影)。オービス(Hシステム)本体を撤去したあとに電光表示板が設置されたものと思われる(撮影/礼田計氏)

国道58号線(名護市数久田)、海沿いの道に設置されたアーチ(2016年撮影)。オービス(Hシステム)本体を撤去したあとに電光表示板が設置されたものと思われる(撮影/礼田計氏)

 ちなみに、今回の事故で破損したオービスのアーチは、2000年ころに設置されたものだそうです。
 オービス本体と共に、それが取り付けられているアーチなど大型構造物の老朽化や腐食、万一の衝突事故における安全性や強度をどう見ていくか……、さらなる点検、検証の必要性を痛感します。

■道路上の構造物、その「危険性」を今一度確認すべき

 2月12日、ダンプカーを所有する産業廃棄物収集運搬業者への家宅捜索が行われました。

 浦添署によると、現場にはダンプカーのブレーキ痕などは残されていなかったということですが、なぜ、運転手は、突然中央分離帯を突破してしまったのでしょうか。

 そして、頑丈であるはずの金属製のアーチが、なぜあのように折れてしまったのか……

 レアケースとはいえ、今回のような大事故が実際に発生してしまった以上、道路上にこうした構造物を設置することの意味、また、事故だけでなく地震等で想定される危険性等についても、ドライバーとして、また地域住民として確認しておく必要があるのではないでしょうか。

 事故の原因が明らかになり、悲惨な事故の再発防止につながることを願いたいと思います。