ジャーナリスト・ノンフィクション作家 柳原三佳オフィシャルサイトHP

ジャーナリスト・ノンフィクション作家 柳原三佳オフィシャルHP

ユルさに付け込み外国人が殺到した「外免切替」、厳格化の方針固まるが、逆に“無法者”外国人による事故増加の懸念

2025.7.12(土)

JBpressはこちら

20250712

警察庁は10日、外国人による悪質な事故が相次いでいることを受け、「外国免許切替(外免切替)」の制度を今年10月から厳格化する方針を示した。外免切替を行った外国人はこの10年で2.5倍となり、昨年だけで7万5905人が取得している。一方、厳格化に伴い、無免許のままハンドルを握る外国人がさらに増えるのではないか、という懸念もある。外国人による加害事故で泣き寝入りを強いられている被害者は少なくない。2021年、無免許、無保険の外国人に19歳の息子をひき逃げされた遺族が、今も続く裁判と理不尽な現実をノンフィクション作家の柳原三佳氏に語った。

タイ人の加害者、無保険の知人の車で…

「あの日からずっと、息子の月命日には人目につかない早朝に妻と事故現場へ行って、花を供えています。民事裁判が終わったらやめようか、とも話してはいるのですが、今もまだそれが続いている状況です」

 そう語るのは、千葉県富里市の谷田季之さん(55)です。

 谷田さんは今から3年7カ月前、三男の陽輔さん(19)を突然のひき逃げ事件で亡くしました。加害者は、ビアクラング・アルン(当時29)。事故の11日前に大阪から富里市に転居してきたばかりのタイ人男性でした。

 谷田さんはやり場のない怒りを込めながら語ります。

「無免許過失運転致死傷、道路交通法違反(不救護、不申告)の罪で起訴された加害者に対する判決は、懲役5年6カ月の実刑でした。今、山梨の甲府刑務所に服役中ですが、つい先日通知が来て、あと1年半もすれば出所するとのことです。これまで手紙は一通もなく、私たち遺族への謝罪も一切ありません」

 車は仲間からの借り物で、無保険でした。そのため、相手からは現在も、賠償はまったく受けていないといいます。

「私自身、会社では安全運転管理者でもあるため、息子たちには常日頃、交通事故の話をしていました。それなのに、被告は運転免許すら持たず、交通ルールを遵守する考えや道徳心もなかったのかと思うと、どこに怒りをぶつけていいのかわかりませんでした」

谷田さんは亡くなった陽輔さんのバイクを今も保管している(筆者撮影)

谷田さんは亡くなった陽輔さんのバイクを今も保管している(筆者撮影)

「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……」言い残して事故車を放置、逃走を図った加害者

 事故は2021年12月10日午後7時41分、千葉県富里市七栄の国道交差点で発生しました。

 この日、親友のAさん(20)を中型バイクの後部座席に乗せた谷田陽輔さんは、Aさんを自宅まで送ってから帰宅する予定で、国道を直進していました。ところが、交差点の青信号に従って進もうとしたところ、対向の軽乗用車が突然、小回りで右折を開始し、陽輔さんのバイクの進路を遮ったのです。

 あまりに急激な直近右折、ブレーキすら間に合わないまま対向車の左側面に衝突を余儀なくされた陽輔さんは、加害車の後部ピラーにヘルメットを打ち付け、路上に投げ出されました。同乗のAさんも同じくタンデムシートから飛ばされ、道路にたたきつけられました。

千葉県富里市の事故現場交差点(筆者撮影)

千葉県富里市の事故現場交差点(筆者撮影)

父親の季之さんが作成した現場見取り図

父親の季之さんが作成した現場見取り図

 割れた車のガラスに頸部の血管を傷つけられた陽輔さんは、交差点の角で大量の血を流して意識不明のまま倒れ、Aさんも激痛でうなり声を上げていました。

 発生直後、車から降りてきた加害者の男は、

「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……」

 片言の日本語でそう言いながら、焦ったようにその場をウロウロしていました。ところが、目の前で倒れている2人を救護すらせず、あろうことか、エンジンがかかったままの車を道路上に放置して、その場から逃走したのです。

 現場を通りかかった人たちによる通報で、2人は救急搬送されました。しかし、陽輔さんは間もなく死亡、Aさんは命を取り留めたものの、第2腰椎破裂骨折等の重傷でした。

 同乗者のAさんは、後に、『対向車がいきなり目の前に出てきた。まさに一瞬で、声も、身体も、とっさに反応できなかった』と証言しています。直進車にとっては、避けられない出来事でした。

無免許の上、「ながらスマホ」で直近右折

 加害者が逮捕されたのは、引き逃げ事件発生から3日後のことでした。この男は、警察からの追跡を逃れるため現場近くで上着を脱ぎ棄て、また、車の持ち主とLINE等で連絡を取り合いながら、直前まで住んでいた大阪へ逃走する相談までしていたことがわかっています。

 男は5年前に日本に入国し、大阪で働いていましたが、そこを辞めて千葉の農家の手伝いをすることになり、日給払いで仕事を始めたばかりでした。

 タイはジュネーブ条約に加盟していないため、国際免許証の対象外です。つまり、本国で免許証を取得していたとしても日本で外免切替が必要なのですが、この男はそれすらしておらず、無免許でした。車はタイ人の知り合いから借りたもので、任意保険は未加入。事故時にはスマートフォンを注視し、いわゆる「ながらスマホ」で前を見ていなかったことも明らかになっています。

ひき逃げ事故で命を奪われた陽輔さん。小さいころから剣道に打ち込み、高校時代も選手として活躍していた(遺族提供)

ひき逃げ事故で命を奪われた陽輔さん。小さいころから剣道に打ち込み、高校時代も選手として活躍していた(遺族提供)

 2022年4月、刑事裁判の法廷に立った谷田さんは、息子の命を突然奪われた父親としての心情をこう述べました。

「私たち家族はもう、以前のように賑やかで笑顔にあふれていた暮らしには戻れないと感じています。陽輔は本当に無念で心残りだったろうと思うと、どうにもならず涙があふれ、息が苦しくなってしまいます。

 あなたの身勝手な行動で、私たちの大事な陽輔は殺されました。小さいときから努力して、学んで、鍛えて、精いっぱい遊んで、周囲の人を楽しませ、いつでも笑顔で何事にも手を抜かず努力してきたあの子の未来を返してください。

 陽輔はいつも『夢は見るより掴むもの』と自分に言い聞かせ、明日を夢見て生きてきました。あなたにこの意味がわかりますか……」

 本件では、加害者が無免許と知りながら車を貸し、逃走の手助けをしたタイ人の知人が不法残留だったことから、犯人隠避、道路交通法違反(無免許運転)、出入国管理及び難民認定法違反の罪で起訴され、懲役1年6カ月執行猶予3年の有罪判決を下されています。ちなみに、この知人も車を所有していながら運転免許を持っていませんでした。

「裁判官は被告らの悪質さを指摘し、正当な判決を下されたのだと思います。でも、私たちは、そもそもこの事故が『過失』で起訴されたことに納得がいきません。被告が逮捕されたのは事故から3日後です。飲酒やドラッグ等の影響がなかったとは言い切れません。ルールを無視し、これほど悪質な行為で人を死傷させておきながら、わずか5年6カ月の懲役とは、あまりに軽すぎるのではないでしょうか……」(谷田さん)

子どもの頃から兄弟で剣道に励んでいた陽輔さん=右(遺族提供)

子どもの頃から兄弟で剣道に励んでいた陽輔さん=右(遺族提供)

高校生のとき、剣道の団体戦に臨む陽輔さん=右端(遺族提供)

高校生のとき、剣道の団体戦に臨む陽輔さん=右端(遺族提供)

飲酒運転で死亡事故を起こしながら、出所後に謝罪も賠償もなく帰国したブラジル人

 外国人による悪質な事故がその後も相次いでいます。

 2025年5月14日、埼玉県三郷市では、車が小学生の列に突っ込んでけがを負わせ、そのまま逃走。逮捕された中国籍の男は、飲酒運転だったことが明らかになっています。

 その4日後、5月18日には、三重県亀山市の新名神高速道路で逆走車による多重事故が発生。危険運転致死傷の疑いで逮捕されたのは、ペルー国籍の無職の男でした。

 無免許による重大事故も発生しています。

 川口市内では2024年9月23日、トルコ国籍の18歳の少年が無免許で車を運転し、原付バイクの男性2人が死傷するひき逃げ事件が発生しました。

 また、以下の記事で取り上げた死亡事件も、ブラジル人による無免許、飲酒、ひき逃げ、無保険という悪質極まりないものでした。

【参考】立憲新人議員、テキーラがぶ飲み・無免許運転の外国人に息子を殺された過去、理不尽な司法判断に呻吟、奮起し国会へ(2024.11.24)

 加害者は刑務所を出たあと、遺族に一言の謝罪も、賠償もせぬままブラジルに帰国し、現在は行方不明です。遺族が民事裁判を起こし、たとえ勝訴しても、加害者に支払い能力がなければ、現時点で判決文は紙切れ同然なのです。

被害者がやられっぱなしの制度にならないように

「私の息子の加害者も無保険でしたので、結局、自分がかけている自動車保険の人身傷害保険などに請求することになり、今、弁護士費用特約を使って、自分の保険会社を相手に民事裁判をしています。結局、加害者は何もせず、そのままです。

 これまでは、当事者感覚がなかったのかもしれませんが、いざ、息子がこうした事故に遭って、なんで自分の子どもが外国人にやられるんだろう、これは異常なことが起こっているということを痛感しました」(谷田さん)

 外免切替の厳格化は、今の日本にとって大切な取り組みです。しかし、厳しくすることで、逆に日本の道交法も、保険の仕組みも理解せぬまま、無免許でハンドルを握る者が今よりさらに増える可能性があります。

 いつも訴えていることですが、被害者は加害者を選ぶことができません。

 谷田さんは語ります。

「もちろん、日本に滞在する外国人の中には、真面目に努力している方がたくさんいることも知っています。でも、私たちの生活のごく身近な場所で、このような出来事が起こっているのは事実です。日本に外国人を受け入れる以上、最低限のルールを守ってもらう。そして、取り締まり等を徹底し、不法行為が起こった場合は責任の所在を明らかにしてもらいたいと強く願います」