ホンダで車の安全を研究していた夫を時速160キロの危険運転で殺した被告が保釈中に無免許運転、やり場ない妻の怒り
2025.8.3(日)
宇都宮市の一般道を車で走行中、友人のバイクと競り合いながら時速160キロを超える高速度で前車に追突。この事故でスクーターの男性を死亡させ「危険運転致死罪」で起訴されている被告の男(22)が、保釈中の今年5月、バイクを無免許で運転し、追起訴されていたことが分かった。事故発生から2年半、刑事裁判は中断したままで、次回公判期日も決まらぬ中、遺族の怒りと疲労はピークに達している。一瞬にして何の落ち度もない夫の命を奪われた妻が、本件の取材を当初から続けているノンフィクション作家の柳原三佳氏に今の思いを語った。
検察から思いがけない知らせ
「7月29日の夕方、宇都宮地検の副検事から電話があり、保釈中の加害者・石田颯太(22)が、2カ月以上前に、無免許運転で捕まっていたことを知りました。それを聞いたときはとにかく驚き、被害者や遺族をバカにしているのかと、怒りを抑えきれませんでした」
そう語るのは、この事故で夫の佐々木一匡さん(63)を亡くした、妻の多恵子さんです。
「石田被告は、5月9日の夕方、宇都宮市内で知人から譲り受けた中型バイクに乗っているところ、宇都宮中央署の警察官から職務質問を受け、無免許運転が発覚したそうです。
うことに気づかず、そのまま帰してしまったそうで、結局、2カ月以上たった7月25日、宇都宮地検は道路交通法違反(無免許運転)の罪で石田被告を追起訴しました。今回のことで、彼は私の主人に対してやった行為に対して何の反省もないことがはっきりしました。
無免許運転が発覚したのはたまたまで、そのまま埋もれていた可能性もあったでしょう。本当に悔しいです、そして、虚しいです……」
危険運転致死罪に問われている被告が一番やってはいけないこと
本件事故は2023年2月14日、午後9時35分頃、宇都宮市下栗町の新4号国道で発生しました。
その夜、アルバイトの石田颯太被告(当時20)は、乗用車(トヨタ・クラウン)で時速160キロを超える速度で走行中、前を走っていた会社員・佐々木一匡さん(63)のスクーター(125cc)に追突。佐々木さんはすぐに病院へ搬送されましたが、多発外傷と胸部大動脈損傷を負い、およそ1時間後に死亡が確認されました。
事故を起こした石田被告は、事故から約1時間後、自動車運転過失致傷の疑いで現行犯逮捕されました。
会社からの帰宅途中、突然、後部から激突された佐々木さん。その瞬間の衝撃がいかに凄まじいものだったかは、警察署に保管されている事故車を見れば一目瞭然でしょう。
亡くなった佐々木一匡さんが乗っていたスクーター(遺族提供)
佐々木さんが乗っていたスクーターのリヤショックはちぎれ、アルミ製の硬質なホイールは砕け、その車体はフレームが後ろから押し上げられたことでVの字に折れ曲がっています。本来、路面とほぼ平行であるはずのシートは大きく跳ね上がって上を向き、原形をとどめていません。
亡くなった佐々木一匡さんが乗っていたスクーター。後方から追突されたため、シートが前方にめくれ上がっている。乗っていた一匡さんはひとたまりもなかっただろう(遺族提供)
ちなみに、この写真は、事故から3カ月後、私が初めて多恵子さんから相談を受けた翌日、それまで一歩も外に出ることができなかった彼女が、勇気を振り絞って警察署へ足を運び、自ら撮影したものです。
その後、本件がどのような経緯をたどったかは、以下の記事をご覧ください。
(参考記事)一般道を160km走行した末の死亡事故が「過失運転致死」のはずがない、遺族の努力で「危険運転致死」に訴因変更(2024.10.15)
被告は当初、「過失」で起訴され、事故から4カ月後には刑事裁判が始まっていました。しかし、法定速度を100キロもオーバーして起こした死亡事故が、「過失」=「うっかり事故」で裁かれることにどうしても納得できなかった多恵子さんは、「危険運転致死罪」への訴因変更を求めて声を上げ、署名活動も展開。その結果、宇都宮地検は「制御困難な高速度だった」として、2024年10月10、本件の罪名を「危険運転致死罪」に変更したのです。
過失運転致死罪から危険運転致死罪への訴因変更を求め、遺族は署名活動を行った
刑事裁判は突然中断したまま、事故からすでに2年半が過ぎました。多恵子さんは今も、公判の再開をじっと待ち続けています。
「石田被告もまた、私と同じく、刑事裁判の再開を待つ身です。そんな状況の中、彼は危険運転致死罪の被告人として一番やってはいけないことをやってしまった。いったい、自分がどういう立場なのか、わかっているのでしょうか? この感覚をどう考えればいいのか、まったく理解できません」
交通事故ゼロの技術確立に取り組んできたエンジニアが悪質運転の犠牲に
亡くなった佐々木さんは、大学を卒業後、本田技術研究所に約40年勤務し、長年、自動車の安全に関する研究を続けてきたエンジニアでした。自身でまとめたワークシートの中には、『2050死者ゼロ目標に感銘を受け、何とか実現させたいともがく日々』という記載も残されていました。
ホンダのエンジニアだった佐々木一匡さん(筆者撮影)
「主人は、歩行者の安全、同乗者の安全など、多方面からホンダの掲げた交通事故ゼロの目標に向けて、日々取り組んでいました。信念を持って仕事を続けてきた人が、このような危険運転によって一方的に命を奪われるとは、想像もしていませんでした。
それだけに私は、主人を殺した者は、せめて人の心が分かる人間であってほしいとどこかで望んでいたのです。嘘でもいいから謝ってほしい、本人の口からその言葉を聞きたい、という気持ちもどこかにありました。主人なら、その相手がきちんと反省し、更生してくれればそれでよしとするのではないか、そういう人だったので、複雑な思いでした。
でも、今回のことでそんな思いは打ち砕かれました。こんな人間に殺されたのだと思うと、本当に主人が不憫でたまりません」
どれだけの人を苦しませれば気が済むのか、摘発されても悪質運転を繰り返すドライバー
つい先日、筆者は首都高速美女木ジャンクションで発生した追突多重衝突事故の裁判を傍聴しました。奇しくも、この事故の被告もまた、新たに発覚した罪(児童ポルノに関する行為)で追起訴されていました。また、公判の中では、飲酒運転や片手運転のながらスマホのほか、今回の6人死傷事故が、3度目の人身事故であったことも明らかになりました。
悪質な交通事故は、ひとりの人間が繰り返し起こすケースが珍しくありません。
多恵子さんは語ります。
「主人の命を奪った石田颯太もそうですが、あれだけの大事故を起こし、まだ刑事裁判も終わっていないのに無免許でバイクに乗っていました。この先、何度も同じことを繰り返す可能性があります。たとえば、無免許で乗ったバイクの自賠責や任意保険はどうなっていたのか、そのあたりも気になります。万一のことがあれば、また次の被害者を生んでしまいます。
もちろん、被告にも保釈される権利はあるでしょう。でも、その場合は、その後の行動をきちんと把握すべきですし、裁判が終わるまでは免許を取得できないように制限をかけるなど、二次被害が起きないシステム作りが必要だと思います。このままでは私たちのような遺族がまた生まれます。こうした悲惨な事故を生まないよう努力、対策が必要だと思います」
刑事裁判の再開がいつになるのか、まだわかりませんが、危険運転致死罪で起訴されていながら、無免許運転で起訴された被告がどのように裁かれるのか。裁判官の判断に注目したいと思います。