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胎児は「人」なのか、それとも「モノ」なのか…。法の現実と交通事故被害者家族の苦悩 #エキスパートトピ

2025.8.26(火)

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胎児は「人」なのか、それとも「モノ」なのか…。法の現実と交通事故被害者家族の苦悩 #エキスパートトピ

『妊婦の死亡事故 緊急帝王切開で産まれ、重度の障害を負いながら懸命に生きる娘は被害者ではないのか?「胎児への加害行為に対して過失運転致傷での起訴を求めます」』と題したオンライン署名が、開始からわずか数日で7万筆を超え、今、大きな注目を集めています。

 事故から日が浅い中、被害者の家族がこうしたアクションを起こし、世の中に訴えようと決断したのはなぜなのか、そして本署名にこれだけ多くの賛同が寄せられるのはなぜなのか?

 胎児の被害が法的にどのように扱われてきたのか、刑事、民事の両面から、見ていきたいと思います。

ココがポイント

刑法では、『胎児は母体の一部』とされていて、過失による事故で胎児が命を落としても、原則として罪に問われないとされています

出店:柳原三佳 2025/8/18(月)

「胎児には慰謝料はつかない」(中略)納得できないと伝えると、「では20万円追加します。本来、胎児は物なんですからね」と

出店:Ameba 2025/8/25(月)

不法行為の被害者としては、胎児であっても権利の主体になることが定められています。

出店:福永活也 2016/12/30(金)

1990年ごろから、死亡した胎児について、母の慰謝料として損害賠償を認めるという考え方が確立されていきました。

出店:福岡県弁護士会

エキスパートの補足・見解

 上記で紹介した記事でも触れているとおり、刑法では「胎児は母体の一部」であり、過失による事故で胎児が命を落としたとしても「原則として罪に問われない」とされています。つまり加害者には、事故の瞬間「胎児」であった赤ちゃんに対する刑事責任が問われない可能性があるのです。

 しかし、母親のお腹の中で遭遇した交通事故がきっかけで、胎児が死傷したとなれば、家族がその判断に疑問と怒りを感じるのは当然でしょう。

 ちなみに、熊本で起こった水俣病(化学工場から海に流されたメチル水銀化合物中毒による神経疾患害)の刑事裁判で、最高裁は『胎児に加えられた侵害が出生後に人に死傷の結果をもたらした場合、業務上過失致死罪が成立する』と判示しています(昭和63年2月29日決定)。この解釈を交通事故にあてはめれば、お母さんのお腹の中で交通事故に遭い死傷した赤ちゃんも「被害者」ではないかという意見も多く聞かれます。

 一方、民事では、1990年頃から胎児の死傷に対する損害賠償が認められるケースが増えてきたそうです。しかし、待ち焦がれた小さな命はお金に代えられるものではなく、その交渉過程で深く傷ついている当事者がおられるのもまた事実なのです。