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【両親死傷の瞬間映像】遺族が公開「もし、ドライブレコーダーがなかったら…」

2025.10.27(月)

Yahooニュース記事はこちら

【両親死傷の瞬間映像】遺族が公開「もし、ドライブレコーダーがなかったら…」

 まずは、正面衝突の瞬間を記録した以下の動画をご覧ください。

 加害者のトラックと、そのすぐ後ろを走っていた後続車、それぞれの車のドライブレコーダーに記録されていた映像を、約1分にまとめて編集したものです。

「やっぱり事故った……」

 後続車のドライバーが思わず発したその言葉が「居眠り運転」の恐ろしさを物語っています。

 事故は、2022年9月21日午後1時半ごろ、京都府笠置町の国道163号で発生しました。

 居眠り運転のトラックが蛇行運転を続け、結果的にセンターラインを突破して対向車と正面衝突。軽ワゴン車を運転していた男性が死亡し、助手席に乗っていた妻が脳挫傷の重傷を負うという重大事故を引き起こしたのです。

 本件事故については、2023年1月に初めてレポートしました。

父の足はちぎれ、母は脳挫傷… 遺族が語る「蛇行で逆走の末、正面衝突の加害者が初公判で主張したこと」 - エキスパート - Yahoo!ニュース

 上記記事の中で、被害者夫妻の長女・星野亜季さんはこう話されていました。

「父は両足ともに膝から下がほとんどちぎれていました。骨盤骨折、多発内臓破裂もあったそうで、胸の形も完全に変形していました。目撃者の話によると、父はしばらくうめき声をあげていたそうで、即死でなかったのだと思うと、戦慄を覚えました。しかし、車の損壊が激しく、救出までに相当な時間がかかり、父は苦しみながら死に至りました。そのときの父と母の絶望感をどのように表現すればよいのか……。さぞ無念であったと思います」

トラックに正面から衝突され、大破した軽ワゴン車。車体の前部が原形をとどめないほど激しく損傷している。運転していた星野さんの父親は運転席に挟まれ、内臓破裂等で死亡した(家族提供)

トラックに正面から衝突され、大破した軽ワゴン車。車体の前部が原形をとどめないほど激しく損傷している。運転していた星野さんの父親は運転席に挟まれ、内臓破裂等で死亡した(家族提供)

■事故後の停止位置が招いた思わぬ誤解

 トラックのセンターラインオーバーによる正面衝突の瞬間。被害者の家族にとっては、直視するのも辛い悲惨な映像です。しかし、星野さんはこの動画を公開してでも、多くの人に伝えたいことがあるといいます。

 それは、「ドライブレコーダー」という証拠の重要性です。

「この映像を見ていただければわかる通り、トラックはセンターラインをオーバーして父が運転する対向車に真正面から衝突しています。もちろん、自車線を走行していた父は100%被害者で、何の落ち度もありません。ところが、衝突後、トラックは父の車を左側へ押し出すようにして進み、正面衝突した状態のまま自車線で停止したのです。実は、事故後のこの停止位置が、ネット上で思わぬ誤解を呼ぶことになったのです」

 以下の写真は、事故直後、すぐ近くにいた人が撮影した動画をスクリーンショットで撮影したものです。

事故直後、近くにいた人が救出活動の様子を撮影した動画のスクショ(家族提供)

事故直後、近くにいた人が救出活動の様子を撮影した動画のスクショ(家族提供)

 少しわかりづらいかもしれませんが、このカットは、被害者側の進行方向から撮影されたものです。

 これを見ると、たしかに軽ワゴン車は対向車線にはみ出して停止しています。この停止位置だけで見ると、実際には被害者である軽ワゴン車のほうがセンターラインをオーバーして突っ込んだかのような印象を受ける人もいるのではないでしょうか。

 星野さんは語ります。

「事故直後のニュースでは、すでにトラックのセンターラインオーバーであることが報じられていました。それでも、事故後の画像がネット上で公開されると、『これは軽自動車のほうが悪いんじゃないか?』といったコメントがたくさん書き込まれたのです。また、父は事故当時65歳で、そこまで高齢というわけではありませんでしたが、『やっぱり高齢者は危ない』といった書き込みも散見されました。でも、ドライブレコーダーの映像を見れば、父の車は衝突後、トラックによって対向車線に押し戻されたのは明らかです。その事実を無視され、ここまで誤解されてしまうというのは本当に怖いことだと思いました」

■もし、ドライブレコーダーがなかったら…

 本件の場合は、トラックと後続車のドライブレコーダーに動かぬ証拠が残されていました。しかし、そうした映像がなく、仮に事故が、真夜中、目撃者もなく、土砂降りの雨や積雪で道路上に衝突の痕跡が残っていなかったとしたらどうなっていたでしょう。最悪の場合、2台の停止位置だけをもとに、「死人に口なし」的な事故処理で済まされてしまったかもしれません。

 実際に本件の加害者も、いざ裁判が始まると事故直後の具体的な供述をひるがえして「記憶がない」などと述べ、自身の過失自体を否定し始めたのです。

 星野さんは語ります。

「加害者は事故を起こす前に眠気をもよおし、約10キロにわたって蛇行運転をしていました。その間、トラックを左に寄せて休憩をとれる広い場所は何か所もあったのに走行を続け、最終的に左カーブで制限速度をオーバーしたまま対向車線へ突っ込んでいったのです。さらに、あれほどはっきりした映像が残っているにもかかわらず、反省も謝罪もない法廷での態度には本当に怒りがこみ上げました。

 でも、捜査にあたった京都警察は、2台のドライブレコーダーの映像を迅速に押さえ、加害者が衝突まで何回センターラインを越えたか、また、他の車に何度ぶつかりそうになっていたかなどを精査し、緻密な裏付け捜査を行っていました。そのおかげで、加害者の『居眠り運転』がはっきりと裏付けられたのです。本当によくやっていただけたと感謝しています。その意味では、両親の事故ではドライブレコーダーがあって本当に幸運だったと思っています」

 2023年4月21日、京都地裁の増田啓祐裁判官は、判決文の中でドライブレコーダーの映像を証拠として採用したうえで、こう記しています。

【判決文より抜粋】

『被告人は、単に本件事故に至るまでの状況について記憶がないと述べるだけでなく、ドライブレコーダーの映像等から当時被告人が眠気を催していたことは明らかであるのに、本件過失責任を認めないかのような供述ないし主張もしており、被告人が述べる反省の言葉や被害者側宛の手紙に記した謝罪等が真摯な内容等に基づくものか疑問があるが、その点を考慮するまでもなく被告人は上記の通り実刑を免れない』

  そして、トラック運転手に禁錮2年8月の実刑判決を下したのです。加害者は現在、収監中ですが、間もなく出所する予定です。

【判決速報!】父の足はちぎれ、母は脳挫傷… 居眠りで蛇行続け正面衝突の被告に禁錮2年8ヵ月の実刑(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース

ドライブレコーダーの映像を根拠に、加害者の居眠り運転を判決文で指摘した京都地方裁判所(筆者撮影

ドライブレコーダーの映像を根拠に、加害者の居眠り運転を判決文で指摘した京都地方裁判所(筆者撮影)

■警察庁が「ドラレコの徹底捜査」を指導通達

 2025年10月12日、『毎日新聞』で、【「ドラレコ捜査徹底を」警察庁が全国に指導 音声確認ミス事案受け(毎日新聞)】というニュースが報じられました。

 記事によれば、千葉県警がドライブレコーダーの音声データの確認を怠ったことで、ながらスマホの有無を確認せぬまま死亡事故の判決が確定してしまったとのこと。この問題を重く見た警察庁は、全国の警察に対して、ドラレコや携帯電話の捜査を徹底するよう指導する文書を出したというのです。

 ドライブレコーダーの重要性はすでに周知され。普及率も高まっていますが、重大事故が発生したとき、客観的な証拠の検証が捜査に生かされなければ意味がありません。

 星野さんもこう指摘します。

「ドライブレコーダーによる捜査の徹底を警察庁が全国の警察に通達したことはよいことですが、このニュースを見たときは正直言って、今さら? と感じたのも事実です。3年前に発生した私の両親の事故では、先にもお話した通り、京都府警がドライブレコーダーの映像をいち早く押さえ、とても丁寧な捜査をしてくださいました。都道府県警によって、捜査の内容に差があるのはおかしな話です。ぜひ、マニュアルを作って、捜査のレベル全国的に統一してほしいですね」

 私がこれまでに取材した事故では、加害者がひき逃げをして逃走中、ドライブレコーダーのデータを消去していたケースがありました。しかし、逮捕後の捜査によって消去された映像が復元され、事故発生から証拠隠蔽までの一部始終が明らかになったのです(以下の記事参照)。

迷い犬保護中の女性「ながらスマホ」の大型トラックにひき逃げされ死亡 被告に下された判決は(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース

 携帯電話についても、使用履歴を全く調べず、被害者遺族の中には以下のケースのように、長年にわたって疑念を抱き続けている人が少なくありません。

『ながらスマホ』に捜査規定なし? 横断歩道で娘亡くした両親、5年経っても消えぬ疑問符) - エキスパート - Yahoo!ニュース

 また、カーナビの中には、GPS(Global Positioning System=全地球測位システム)のデータが保存されているものがあり、実際にその履歴を検証した結果、車の移動にともなう位置データや時刻から、速度や事故現場の信号の色が特定されたケースもありました。

加害者の嘘を暴いた「カーナビ」に残った走行データ ドラレコだけじゃない!事故解明にナビのデータが使えることも(1/3) | JBpress (ジェイビープレス)

 特に、死亡事故や重傷事故で当事者が自ら証言できない場合、真実が曲げられることのないよう、ドライブレコーダーをはじめとする客観的な証拠の検証は不可欠です。

 事故が起こったら、まずはこうした証拠をすみやかにチェックし、データが残っていないか、隠されていないか等、徹底的な捜査がなされるべきでしょう。

 事故の状況を語ることができない当事者を守るためにも、今回の警察庁通達が、全国の都道府県で徹底されることを期待したいと思います。

ドライブレコーダーはわが身を守るためにもぜひ装備しておきたい(写真:イメージマート)

ドライブレコーダーはわが身を守るためにもぜひ装備しておきたい(写真:イメージマート)