最近の動向

 変死者の解剖率の低さや検視体制の不備が指摘されている問題で、民主党は21日午後、死因究明制度を見直すための関連2法案を衆院に提出する。変死者の死因究明の責任官庁を警察庁に一本化し、各地に法医解剖の専門機関を設置するのが柱。これにより、解剖率と検視・検案技術の向上を目指す。

 提出されるのは、
「非自然死体の死因の究明の適正な実施に関する法案」
「法医科学研究所設置法案」

現在は、根拠となる法律などの違いで、犯罪が疑われる変死者の死因究明は警察庁と法務省(検察)、感染症や中毒などが疑われる場合は各都道府県と、担当が分かれており、「責任の所在があいまい」と指摘されている。

 法案では、変死者の死因究明の責任を、警察庁に新設する「死因究明局」に一本化。都道府県警に法医学の専門知識を有する「死因調査専門職員」を置く。警察署長は、感染症や中毒による死亡の可能性が浮上した場合、関係行政機関に通知する。

 内閣府の機関として「法医科学研究所」も創設し、各地に支所を置く。警察の依頼で法医学の専門医が変死体の解剖を行うとともに、専門医の育成も担う。

 一方、5月23日の衆院法務委員会では、公明党の神崎武法・前代表と自民党の清水鴻一郎議員が、変死体の解剖率の低さなどを指摘し、国の対応をただした。厚生労働省は「解剖を増やすことや、死体検案能力の向上に努める必要がある」と答えた。

[解説]危機的状況を反映問題提起の狙い

 会期末が迫った今国会に、民主党があえて2法案を提出したのは、死因究明の現場が、それだけ危機的な状況にあるためだ。

 新型肺炎や新型インフルエンザなど世界的に新たな感染症の恐怖は増しているのに、死因究明制度は脆弱(ぜいじゃく)なままだ。民主は2004年に制度見直し検討チームを設置。与党内でも問題意識を持つ議員は多い。

 こんな中、ガス器具の欠陥が放置されて多数の死者が出ていたことなどが発覚し、対策のために死因を詳しく調べることの必要性が認識された。厚生労働省が診療関連死の死因などを調べる医療版の事故調査委員会創設を進めていることもあり、民主には「今を逃すと、見直しの機会はなくなる」(細川律夫衆院議員http://www.minshu.org/hosokawa/)との思いがあった。

 2法案は残る日程からみて今国会の成立は難しいが、問題提起した意義は大きい。今後、国会で議論が盛り上がるのは間違いなく、制度改善に向けた与野党の協力が求められる。(地方部 小川翼)

© 柳原 三佳